古代エジプト象形文字「ヒエログリフ」どう解読した? ふたりの天才による知のバトルが熱い!
加えて本書の引きとなるのが、余談の豊富さである。たとえば解読の鍵となる「パターンの脆弱性」について説明するのでも、ナチスの暗号機「エニグマ」のヒトラーも気づかなかった欠陥や、ウォーターゲート事件発覚のきっかけとなったドアの印、大学入試で親の代筆が見破られた際の証拠にまで話題は広がり、読者を飽きさせない。
こうした多層的な話の構造は、ヤングの思考パターンを彷彿とさせる。彼の解読作業においては、中国語から解読の糸口を見つけ出すのをはじめ、興味の幅の広い人間ならではの推理が冴えを見せる。一方シャンポリオンのパートは、重大な発見によって興奮のあまり失神したりとその性格の通り、感情的かつドラマチックに展開。一心不乱に目標へと突き進み、ヒエログリフの全貌が明らかとなっていく、当時の興奮を追体験できる。
シャンポリオンのように古代エジプトの謎にますます惹かれていくか、ヤングのように横断的な知識を持つことの楽しさに目覚めるか。読者の読後感が二分されそうなほど、ヒエログリフをめぐる話の本筋も脇道も同等に面白い。そこではふたりのライバル関係が、形を変えて続いているようでもある。
■書籍情報
『ヒエログリフを解け ロゼッタストーンに挑んだ英仏ふたりの天才と究極の解読レース』
エドワード・ドルニック 著
杉田七重 訳
出版社:東京創元社
発売日:1月27日
価格:2,970円