小説の新人賞、なぜ「受賞作なし」相次ぐ? 作家デビューへの道はどう変化したか

 このような状況により、新人賞の受賞作なしが相次ぐという状況が生まれたのではないのだろうか。出版社にとって、実に厳しい話である。なにしろ、新人賞にかけた手間と金が無駄になってしまうからだ。新人賞の規模によって金額が変わるが、複数人に下読みを依頼している場合、これだけで数十万から数百万の金がかかる。それが無駄になるのだ。新人賞に携わっている編集者の時間も無駄になってしまう。出版社は大損だ。だから出版社としては、受賞作なしは避けたい。実際、私はある編集者から、そのようなことをいわれた記憶がある。そりゃそうだろうと思ったものだ。もちろん最終選考の選考委員だって、受賞作を出したいという気持ちを強く持っている。だから出版社も選考委員も、受賞作なしというのは、苦渋の選択なのである。

 最後に、コロナ禍が新人賞に与えた影響を書いておこう。新人賞の受賞作が決まると、だいたい数ヶ月後に、贈呈式と祝賀パーティが行われる。しかしここ数年はコロナ禍により、関係者だけで贈呈式を行うだけになっている。受賞者にとっては、残念なことであった。なぜなら多くの出版社の編集者と顔合わせをして名刺交換をし、話を交わすのはパーティの席だからだ。その機会が奪われてしまった。したがって新人賞を開催した出版社の担当編集者しか知らず、どうやって仕事を広げていけばいいか分からない受賞者もいるようだ。編集者の方も、受賞作を読んだだけで、話もしたことがない新人には、仕事を頼みづらい。せっかく作家としてのスタートを切ったのに、こんなことで躓いては可哀そうである。今年になって祝賀パーティ再開の動きが出てきたが、このまま旧に復することを祈りたい。そして一人でも多くの新人賞受賞者が、作家として大きく成長することを期待しているのである。

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