WBC 日本野球はなぜ強い? 「肉体的優劣の少なさ」と「科学と論理の進化と普及」
伝統的に日本野球は強い
野球日本代表が強い。
大谷翔平がいて、ダルビッシュ有がいてくれて、伸び盛りのカージナルスの若手、ラーズ・ヌートバーが親の母国として参加してくれて、昨年の日本シリーズで打ちまくり、今年からレッドソックスに移った吉田正尚もいる。残念ながら不参加になったが、鈴木誠也もやる気満々でいてくれた。
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強力なメジャーリーガーが4人もいてくれて、さらに、村上宗隆や岡本和真といった若き大砲も、国内最強投手の山本由伸も、近い未来に世界最高になりそうな佐々木朗希もいる。各球団で中心として活躍する選手らが、それぞれに与えられた役割を果たそうと一生懸命になっている。
そりゃあ、強いだろう。
でも、野球が戦力を整えたから勝てるものではないのは、ファンならばよく知っている。シーズン最下位のチームでも3連戦あれば、首位チームにひとつくらい勝つようにできている競技だ。
それでも勝ち続けてくれるのだから、それぞれの選手が能力を磨き、調整し、高いモチベーションでそれを発揮しようとしてくれた結果なのだろう。
そんなチームを目にできる時間は、かけがえのないものだ。
ただ、2023年のチームが強いのはわかるけど、野球日本代表は伝統的に世界トップレベルの強さにある。アマチュア選手だけで編成された1984~1996年のオリンピックにおいても、金、銀、胴、銀という結果を残している。
「メジャーリーガーが相手にいなかったから」
という理由を考えることもできるが、それは日本も同じだし、キューバなんかは当時も今もよく似た構造でチームを編成している。
すると、少し考えてしまう。
「どうして、日本野球はさまざまな競技が世界にある中で、世界トップであり続けられるのだろう?」
ここでは、その理由を考えてみたい。
野球はフルコンタクトのスポーツでない
スポーツの世界大会といえば、サッカーのワールドカップを思い浮かべる人は多いだろう。長くそれを見てきた人には、Jリーグができた1990年代に代表チームがワールドカップをめざし、それでもかなわなかった苦闘の歴史を思い出すことも多い。
世界との間に大きな壁があったのは、間違いない事実だろう。
でも、野球はそんな時代にあっても、世界で通用していた。不思議に感じて、オリンピックチームの経験者ら数人に聞いてみたことがある。
日本は野球が特別に盛んだから、というものが多く、たしかにそれは大きな理由だと思う。でも、それだけで勝てるほど、スポーツの世界は甘くない気もする。
すると、「なるほど」と感じる理由を話してくれた人がいる。
「野球はコンタクトの少ないスポーツですからね。ボールという道具をバットという道具で打ち返す。肉体がコンタクトする機会は、走者と野手の間くらいしかない」
これは大きな理由だろう。
基本的にスポーツというのは、肉体がぶつかり合うほどに体格差が如実に結果につながる。だから、肉体をぶつけ合う格闘技は基本的に体重別となっている。そうしないと、競技として成立しにくい。
体重別でない相撲という例もあるが、やはり、大型力士を小兵タイプが倒すのは至難であり、それを成すには鍛錬と技術、駆け引きが必要で、さらに相手を上回る敏捷性(アジリティ)が要求される。
だから、体重別でないラグビー、アメリカン・フットボールなどのフルコンタクト・スポーツにおいては、対格差を逆転するのが難しい。ラグビー日本代表が起こすジャイアントキリングは、小兵力士のそれと同じく、鍛錬や駆け引きを総動員して生まれる。
サッカーの場合は、野球と同じリミテッドコンタクトのカテゴリーに入る。肉体のぶつかり合いは限定的だ。だが、野球に比べて肉体がぶつかる機会は多く、コーナーキックなどのゴール前では、その体格差がもろに出る。バットのような道具も使わない。
だから、サッカー関係者の多くは、世界と戦うために敏捷性の重要性を説く。東洋系選手の突破口は、そこだと認識しているからだ。
野球の場合は、そのようなコンタクトがない。速いボールを投げるには、もちろん体格のよさも影響するが、手先を離れてしまえば、それは150gに満たない、ただのボールでしかない。しかも、18.44mも離れた先でそれをバットで打つ。バットを振るにも体格は関係するが、技術で補える部分も多い。さらに、当たらなければ体格の優位さも具現化しない。
そして、なかなか当たらないのが野球という競技だ。
日本野球が世界に通用する大きな理由に、この野球が持つコンタクトの少なさという特性は大きく影響しているだろう。