ジェーン・スー 生きづらさを抱える人に寄り添う最新エッセイ「外にはいろんな景色があるし、部屋から出られる窓はたくさんある」

これさえやればOKみたいなハウツーは存在しない


――エッセイの中には「何のために生きているのか」など大きな命題について書かれているものもありました。誰もが一度はぶち当たる問題だとは思いますが、ジェーン・スーさんはそれについてどのような答えをお持ちですか?

スー:なぜ生きていくか――その答えにあまり理由などないと思っています。そのことを深く考えているとドツボにはまってしまうし、本当に忙しい時はそんなこと考えている暇もありません。だいたいそういう思いが浮かぶのは暇な時ですからね。なぜ生きていくのかを考えるよりも、生きていくのだから自分のことを嫌いにならないで生きていった方がいいなという思いはあります。

 「自分のことを好きになれません」っていう相談はよくあるんです。自分のことを好きになるのも嫌いになるのもその人の自由なのでどちらでもいいとは思うんですけど、ただ自分が自分のことを好きじゃないのが苦しいのであれば、自分で何とかしたほうがいいかもしれない。誰かが何かをしてくれることはないから。

 だから、どういう状態になれば自分のことが好きになるのかっていうことと、自分が好きな自分が、本当に自分が望んでいる姿なのかを考える。たとえ3歩進んで2歩下がるような状態でも、ちゃんとジタバタしたほうがいいと思います。これさえやればOKみたいなハウツーは存在しないし、何かをしたところですぐに悩みは解決しないですよね。だから、納得いくまでジタバタすることが必要だと思います。

――本書の中ではご自身のことも赤裸々にさらけ出しています。書くことで救われたりすることはありますか?

スー:救われたくて書いているわけではないのですが、書くことが結果的に自分のケアになっているとは思います。あと、なるべく正直に書きたいと思っています。文章を書いて発表した時点で、出来事から客観的な距離が取れるようにはなっていて。物書きでない人にもよく言っていることなのですが、外に出すっていうのはすごく大事です。誰かに見せるか見せないかは別として、日記などの形でもいいし、書いて思いを外に出すことで、心の整理のきっかけはつかめるかな。

自分にとっての生きづらさとは何かを考える


――女性としての生きづらさに言及されているエッセイもあります。今、ご自身にとって生きづらいと感じることはありますか?

スー:かつて若かった時には、若い女性だという理由で仕事の長期的な戦力としてみなされないとか、結婚や出産というプレッシャーはありましたが、この年齢になって、ようやくそこから解放されましたね。でも、結婚出産の適齢期といわれる30代中盤くらいまでは、その機能があるのに使わないでいいのかっていう世間の眼や、自問自答が面倒でした。実際に出産をしたらその時の仕事から1~2年は離れなければいけなかったりするし、どうしたものかなとは考えていました。

 でも、その壁さえ乗り越えたらだいぶ楽になりましたね。今は、50代目前で体力的に辛いなどはありますけど、30代の頃の辛さとはまったく別の意味合いですね。

――年代によって悩みは移り変わるものだと思いますが、年を重ねることで生きていくことは楽になりましたか? それとも悩みというのは生きている限り続くものなのでしょうか。

スー:30代は体力も気力もあるから悩みも深くなるし、結婚・出産をした友達との距離も変化して、それによる重圧などもあると思います。でも、40代後半になるとそういうタイプの悩みはなくなって、老後のお金の話とか更年期とか、スーパー現実的な目先の悩みになりますね。悩みが減ることはないですが、悩みの質は変わってくるんじゃないでしょうか。

――これからどういう50代を過ごしたいですか?

スー:今年はとにかく仕事を減らしていこうかなと思っています。昨年もすごく減らそうとしたけど、全然減っていなくて。そこでできた時間で仕事の質を戻さないとダメな時期です。20代からギリギリ40代くらいまでは仕事から帰ってきてバタンキューの状態でもいいかもしれないけれど、50代でそれはダサいので、ダサくはなりたくない一心です。

 今日の夜は何をしようかな。家でご飯をつくろうかな、運動しに行こうかな、とかを考える時間と気力と体力が残っていることが大事です。今は満身創痍なので(笑)。


――最後に現代を生きる女性たちに向けてエールをいただけますか?

 スー:「生きづらさ」という言葉の暗示にかからないでください。何でもかんでも生きづらさという言葉にまとめられすぎている気がします。それは本当に自分にとっての生きづらさなのかどうか、生きづらさとは自分にとって何なのかをじっくり考えることで生きやすくなる可能性もあるかもしれません。

  たしかに生きづらさって便利な言葉だと思うし、今まで言葉にできなかったことをきちんと捉えている言葉だと思うんです。けれど、それが具体的に何なのかは、個人でまったく別のことだと思います。そこをちゃんと把握しないでいるのは自分で自分に余計な閉塞感を与えるだけなので。

  別にポジティブになる必要はないんです。フラットでいいと思います。私だったら、今の状態は本当にネガティブなのかっていうのを冷静に考えます。そこをちゃんと考えることで、出口に近づいていけると思いますよ。

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