出版物販売が前年比約6.6%減、電子出版市場も成長鈍化 「巣ごもり需要の終息」をどう乗り越えるか?

 出版科学研究所は2022年の紙の出版物(書籍と雑誌の合計)の推計販売金額を発表した。同研究所が発行する『出版月報』2022年12月号によると、紙の出版物は前年比約6.6%減の1兆1300億円台となったことが判明。また、順調とみられていた電子出版市場も伸び率が鈍化傾向にあり、紙と電子を合計した市場でもマイナスになると見込まれているという。

 出版物販売が低迷している要因として、コロナ禍に伴う「巣ごもり需要が終息」したことが挙げられている。コロナ禍では、家で過ごす際に手軽に楽しめる娯楽として、出版物が注目された。電子書籍の売り上げが好調となり、『鬼滅の刃』など漫画単行本のヒットが出たことによって、出版業界にとっては前向きな話題が少なくなったが、一段落ついたということであろう。

 また、物価高に伴う「買い控え」も影響しているとされる。加えて近年の物価高騰で出版物に欠かせない「紙」の原価も上昇している。その紙代の原価上昇が出版物の価格に上乗せされていくことも今後はあるだろう。近年、出版社は返本のリスク回避のため、初版の印刷部数を控える動きがあったが、物価高で一層その傾向が強まりそうだ。買い控えは嗜好品である出版物は打撃を受けやすいといえるため、今後の動向を注視していきたい。

 紙の本の販売の中心である、書店の減少がもたらす影響も大きい。これまではもっぱら地方の書店が閉店に追い込まれるケースが取り上げられていたが、近年は都心の大型店の閉店が目立つ。MARUZEN&ジュンク堂書店渋谷店の閉店発表は、話題になった。リアル書店の閉店は雑誌販売で重要な定期購読者を失うことに繋がりかねないため、不安視されている。

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 対して、紙の出版物販売に強みをもつオンライン書店「Fujisan.co.jp」を運営する富士山マガジンサービスが、主力としてきた雑誌のほかに、書籍などの出版物の販売にも注力すると発表。雑誌で培ったノウハウを書籍でも発揮できるか、注目されている。

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 コロナ禍や物価高、そしてスマートフォンを介して提供される嗜好品の多様化などによって、依然として出版界の先行きは不透明である。出版物は何はともあれ、手に取ってもらわなければ売上に結びつかない。出版社と書店が連携して本と出会いの場を創出するなど、地道な営業努力が求められる。

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