『ONE PIECE』ルフィが“カッコいい”のはゴムゴムの実のおかげ? 一見弱そうな能力のメタ的な効果

 「週刊少年ジャンプ」での連載がついに最終章を迎え、さらに盛り上がりを見せている『ONE PIECE』。本作の主人公、モンキー・D・ルフィが食べた「ゴムゴムの実」に隠された謎が解き明かされ、“覚醒”という新しい要素も定着してきたなかで、あらためて惚れ惚れするのは「ゴム」というモチーフの絶妙さだ。

 連載を開始する段階で、尾田栄一郎氏がどの程度まで物語全体の構成を決めていたかは定かではないが、決して派手とはいえない「ゴム」の能力を主人公に与えたことは、『ONE PIECE』という作品の方向性を決定づけたと言えるだろう。本作には“能力バトル”の要素もあるが、それ以上に“人の戦い”というイメージがあり、そのなかでルフィのカッコよさが際立ってくる。

 ルフィが別の実の能力者だったことを考えてみよう。主人公が獲得する能力として、もっと便利で、もっとカッコいいものはいくらでもある。例えば、ルフィの兄・エースの能力として登場した「メラメラの実」。「炎」も「赤」という色も主人公に適した要素で、強さの表現もより説得的になるが、一方でルフィが持つコミカルさやトリッキーさ、(能力ではなく)人の強さ、という部分は強調されなかっただろう。「炎」と比較して「ゴム」であれば、能力者同士の戦いで比較的劣勢になることが多く、少なくとも「単純に能力のおかげで勝った」と冷めるようなシーンが生まれにくい。唯一、「ゴロゴロの実」の能力者であるエネルと対峙したとき、“電撃無効”(ゴムだから電気を通さない)という好相性が勝負を決めたが、意図された「天敵」という描写で、無敵の強者を破る痛快さがあった。

 また、本作では利己的で卑劣な王・ワポルの能力として登場した「バクバクの実」も、描き方次第では少年漫画の主人公にぴったりだ。あらゆるものを食べることができ、食べたものの特性に応じて自身を変化させたり、強化したりすることができる。ルフィもそうであるように、少年漫画の主人公は食いしん坊(わんぱく)キャラと親和性が高く、この能力だけで一作品できてしまいそうな悪魔の実だ。しかし、物語全体として「どんなものを食べて、その特性をどう利用して戦うか」というアイデア勝負のバトルにフォーカスした内容になることが想像され、ルフィが理不尽な敵を「拳(気持ち)でぶん殴る」というカタルシスは描きづらそうだ。

 身体を武器に変えるスパスパの実/ブキブキの実もカッコよくて強い能力だが、コンセプトが攻撃的すぎるため、これを軸に据えても現在の『ONE PIECE』の世界観は構築されなかっただろう。攻撃性より打たれ強さのある「ゴム」だからこそ、ルフィのがむしゃらさやメンタルの強さが生きてくる。

 他方で、「ゴムゴムの実」に近いニュアンスの能力としては、「バネバネの実」が挙げられる。能力を生かした技のアイデアも、見栄えも少年漫画的で楽しかったが、柔軟なゴムと比較して硬質で冷ややかな金属のイメージが優先されたのか、本作にはベラミーという悲しき悪者の能力として登場している。

 また身体を「餅」にすることを基本とした「モチモチの実」も「ゴム」にイメージが近く、こちらは「覇王色の覇気」の持つ超強キャラのシャーロット・カタクリに与えられている。尾田先生には、こうしたユニークな響きのある、一見強くなさそうなモチーフを使って、キャラクター自身の魅力を強調しようという意識があるのかもしれない。ただ、ゴムと比較するとヤンチャ感は薄く、ルフィのキャラクターには合いそうにない。

 「ゴム」という、一見強そうになく、しかし縦横無尽に動き回るアクティブさを備えたモチーフは、考えれば考えるほどルフィの魅力を引き立てる要素に満ちている。今となっては別の能力を備えたルフィというのは想像しづらいが、アイデアの段階で「ゴム人間」が「世界的ヒーロー」になると考えられただろうか。尾田栄一郎、恐るべしだ。

関連記事