少女たちによる慣習との戦い アメリカでベストセラー『グレイス・イヤー』著者キム・リゲットが託す次世代への希望
––––たしかに本書では舞台となるガーナ―郡の「グレイス・イヤー」という風習が、リゲットさんの言われる女性の団結を阻む風習として描かれています。なかでも印象的だったのは、少女たちの怒りが、男性が作り上げた社会へではなく、ともに「グレイス・イヤー」に参加している仲間へ向けていたことでした。
キム・リゲット そうですね。男性同士が殴り合うような戦いと違って、怒りが内にこもって、他の女性に向けることしかなくなっています。この「怒り」は、精神的なもので、殴り合うことよりもダメージが強いものじゃないかと考えています。
–––– もうひとつ印象に残ったのが、グレイス・イヤーのキャンプで過ごした女性たちが、次に訪れる女性たちにへの物資を引き継がせないよう燃やしてる描写がありました。
キム・リゲット 自分が経験した苦しみや痛みについて、次の人たちにも簡単に過ごしてほしくないという感情は人間が持っている部分ではあります。一方で自分の子どもに同じような思いをさせたくないと思うこともありますし、それがあらたな一歩になるということもあります。小説のなかでは、「グレイス・イヤー」でなにが行われているか、経験した人たちも言ってはいけないことなっていますが、そうした「沈黙」が“伝えている”ということもポイントになってくるかと思います。
–––– 「この道を、わたしたちよりも前に歩いてきたすべての女の子たちとこれから歩くことを強いられる全ての女の子たちへの敬意」という言葉がとても強く心に残っています。また主人公ティアニーが採った選択と行動は、そうしたこれまでの苦しんだ女性たちや、これから様々な経験をする女性たちへの敬意としても感じることができました。
キム・リゲット そうですね。この本には次の世代への希望があると思っています。そして、努力をずっと続けていくことに意義があるとも思っています。
–––– 「グレイスイヤー」はニューヨークタイムズのベストセラーランキングに入るなど話題となりましたが、本作が支持されている理由についてリゲットさんご自身はどうお考えですか
キム・リゲット なにが魅力的だったのか私が聞いて回りたいのですが(笑)、たくさんの国の読者のみなさんが『グレイス・イヤー』に共感してくれていて私もびっくりしています。読者の方からは、この本をきっかけに自分の中の怒りに気付くきっかけになったと感謝の言葉もありました。支持されている理由としては、辛いものではあるけれども、多くの女性が感じている真実が書かれているからなのだと思います。
–––– 日本の読者の方に、『グレイス・イヤー』でどんなことを感じ取ってもらいたいと思いますか
キム・リゲット 激しい描写もあるので、すべてが楽しく読める小説ではないのですが(笑)、最後には希望というものを与えられるかなと思います。この本を読むことによって「正義とはなにか」など、この本に書かれていることと自分の人生を繋ぎ合わせることができるか、考えるきっかけになっていただけたら嬉しいです。また自分の身近な女性に対して、優しさや心を通わせる気持ちを持って繋がり合って、大きな流れを作りあげるとか、世界を違う方向に結びつけようとするきっかけになれば嬉しいです。
『グレイス・イヤー──少女たちの聖域』
ガーナー郡では、少女たちに“魔力”があると信じられている。男性を誘惑したり、妻たちを嫉妬に狂わせたりできるのだと。
その“魔力”が開花する16歳を迎えた少女たちは、
ガーナーの外に広がる森の奥のキャンプに一年間追放される。“魔力”を解き放ち、清らかな女性、そして妻となるために。この風習について語ることは禁じられていて、全員が無事に帰ってくる保障もない。
16歳を迎えるティアニーは、妻としてではなく、自分の人生を生きることを望みながら、〈グレイス・イヤー〉に立ち向かう。キャンプではいったい何が? そして、魔力とは? 生死をかけた通過儀礼が、始まる──。
キム・リゲット
アメリカ中西部出身。16歳の時にミュージシャンを目指してニューヨークに移り住み、ロックバンドなどのバックシンガーを務めた。40代で小説を書き始め、2015年にロマンス・ホラー小説 BLOOD AND SALT でデビュー。2019年に刊行された本作は長篇5作目にあたり、ニューヨーク・タイムズ・ベストセラーほか多くのリストにランクインし注目された。また、「チャーリーズ・エンジェル」の監督・脚本も務めたエリザベス・バンクス監督で映画化が予定されている。ロサンゼルス在住。