『幽☆遊☆白書』なぜ暗黒武術会で読者層が広がった? 画期的なポイントを振り返る

決勝の緊迫感は暗黒武術会終了後も尾を引く

 前章では暗黒武術会の後に、対峙した敵たちと仲良くなっていく浦飯チームに触れたが、唯一の例外は決勝で戦った戸愚呂チームである。

 鴉は、戦闘相手である蔵馬に異常な執着を見せ、「お前はいつまでも私のそばにおいておきたい」と頭(顔)だけ傷つけないようにしようとする。作者がボーイズラブを意識したのかはわからないが、鴉の執着心は異常な恋愛感情に近く、その矛先を向けられた蔵馬は鴉を嫌悪する。決勝で鴉が死んでいなくても、これは変わらなかっただろう。

 次は飛影と戦った武威。彼は負けを確信した時、殺してほしいと飛影に頼んだが受け入れられなかった。決勝後、会場は崩れ落ちるのだが、そこで死ぬような妖怪だとも思えない。だが武威の立場になってみると、戸愚呂兄弟に負け、その後時を経て、おそらく自分より若い妖怪である飛影に負けたのは屈辱以外のなんでもなく、戦意を喪失したのはたしかだろう。ほかのチームの敵たちのように、もっと強くなりたいと再登場するほどの熱意も、決勝戦で失ったのではないだろうか。

 暗黒武術会が終わった後、唯一登場したのは戸愚呂兄だ。彼に武威のような諦めの良さはない。幽助チームに殺意をみなぎらせ、人を食うことで能力を得る人間を逆に支配して仙水編では蔵馬と戦った。結果として蔵馬を怒らせたことにより、バトル漫画史上最悪とも言える状態に身をおくことになる。

 決勝戦はほかとは違い、「のちに仲良くなりました」では済まないほどの緊迫感があったのだ。例外はと言えばラスボスの戸愚呂弟だろうか。彼の真の望みは自分を倒す相手に巡り合うことであった。その望みを果たしたあと、死後の世界の中でももっとも苦しい道を選んだ戸愚呂弟は、最後に和やかな笑顔を見せる。

読者にも影響を与えた暗黒武術会

 暗黒武術会の特徴を述べるにつれて、あることに気づいた。『幽白』は、暗黒武術会を契機に読者層が広がったのだ。

 魅力のある敵がいたのは大きかった。バトル要素を好む少年であれば必ずトーナメント戦の続きが読みたいと手にとり、少女たちも今でいう「推し」を見つける楽しさを感じた。それは現在も新しい読者の獲得につながっている。

 トーナメント戦とひとくくりにしても、漫画で描かれる戦いの様子はさまざまだ。このことを念頭におき、私もまた暗黒武術会を読んでみたい。

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