「十二国記」シリーズ、30年目の新事実とは? 小野不由美が作り出した、優しくない異世界

 ああ、こんな感じで書いていたら、大幅に字数をオーバーしそうだ。CDブックの付属ブックレットだったため、長らく幻となっていた短篇「漂舶」が掲載されているのも嬉しいが、個人的にもっとも注目したのが、長年にわたりシリーズの担当をしている編集者・鈴木真弓と、作者である小野不由美のインタビューである(『魔性の子』の担当編集者だった、大森望へのインタビューも、面白いエピソードが多い)。講談社から新潮社へと会社を変えながら、一貫してシリーズを担当している鈴木の話は、内部事情がてんこ盛りだ。なかでも講談社時代、シリーズの途中からWHに先行する形で講談社文庫から新刊が刊行されるようになった経緯など、興味は尽きない。日本人作家による異世界ファンタジーの読者層は若者中心であったが、さらに広い層に受け入れられるようになっていったことが、この出版形態から分かるのである。

 さらに、新潮文庫でシリーズの《完全版》を出版することになったとき、最初からシリーズのカバーとイラストを担当していた山田章博を起用しようとして、新潮社内の理解を得るのに苦労したという話も注目したい。「十二国記」シリーズに関しては、山田章博のイラストの力が、作品の魅力に大きく寄与している。そのことを熟知している鈴木の奮闘があり、新潮文庫でも山田章博のイラストが楽しめるようになったことは、大いに感謝すべきであろう。

 一方、小野不由美のインタビューも、次々と新事実が出てきて驚く。また作品理解を深める発言も少なくない。たとえば、シリーズを書き進めたことで『魔性の子』のときに想定していた大きな流れから、結果的として異なる展開になったものはあるか。運命が別の道に分岐したようなものはあるか、という質問に対して、

「ありません。設定がすでに決まっていたと言っても、それはフワッとしたものなので、変更点はないですね。運命的なものも、ないです。そういう書き方じゃないので」

 と答えている。私はこの〝運命的なものも、ないです。そういう書き方じゃないので〟という言葉に戦慄した。どんなに辛いことや悲しいことがあっても、それは運命ではない。

 人々の選択が絡み合った結果として、生きる者もいれば死ぬものもいる。私たちが生きる現実と同様、ご都合主義はないのだ。作者が創り出したのは、そのような異世界なのである。だから読者は、優しくない世界で一生懸命に生きるシリーズの登場人物に魅了される。いつまでもキャラクターたちを、心の中に抱いている。シリーズの新作がいつになるかは分からないそうだが、既刊とガイドブックを傍らに置いて、ただ待ち続けることにしよう。なぜなら私たちは、この物語世界から離れることができないのだから。

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