【漫画】就職したあとも小説を書き続けて……仕事と趣味の両立に悩む女性、その決断は?

ーー本作を創作したきっかけを教えてください。

山田しいた(以下、山田):過去に商業媒体で小説を創作する大学生たちを題材とした漫画を描いていました。その作品に登場していた彼女がその後どうしてるかなと想像しながらパラレル的に考えたものが本作です。自分も会社に勤めながら創作をしていた過去があったので、自身の経験を主人公の女性に仮託しました。

ーー印象に残っているコメントは?

山田:言葉にならない気持を表した、「ものすごく……」だけで終わっているコメントが印象に残っています。たぶん本作を読んで感極まってくださった、ロジック面だけではなく感情的な面も届いたのかなと思い、うれしく感じました。

ーー印象に残っているシーンについて教えてください。

山田:物語の終盤にて、髪が伸び、眼鏡をかけた主人公の女性が登場するシーンです。「身だしなみにかける時間が減りました」という独白を見た目の変化で表現できたかなと思っております。

ーー主人公の女性とはあまり関係のないAI技術者(物理)さんを描いた背景は?

山田:悪目立ちをするキャラが“場の雰囲気”を壊さないよう、登場人物たちから気を遣われるおかしみが出たらいいなと思いました。ここでの“場の雰囲気”は“漫画の虚構性(リアリティ)のライン”であり、本来なら登場人物たちがそのラインに気づくことはできませんが、メタ要素として読んでる人に突っ込んでもらえたら、また違ったおかしみが出ると思いました。

ーー過去には学校を舞台とした作品を多く描かれていたかと思います。会社を舞台とした作品の魅力について教えてください。

山田:“漫画の虚構性(リアリティ)のライン”を現実的に作ったのに台無しにする変なゲストキャラが現れるものの、主要人物は常識的に対応する……というズレのギャグを多用することが多いのですが、会社を舞台にすると虚構性の低い(リアリティの高い)設定を打ち出しやすい気がします。

 ただ学園モノの方が読者さんの中で共通体験は多いので、前提の説明が少なく、早めに本題に入れる魅力もあると感じています。

ーー漫画を描きはじめたきっかけを教えてください。

山田:大学生の夏休みに暇ができてしまい、30ページほどの漫画を描きました。約2か月という期間も漫画を描くためにちょうど良かったのだと思います。その後も漫画を描き続け、就職してからも細々と続けていました。

ーー漫画家を目指そうと思った経緯は?

山田:働きながら趣味として漫画を描き続けていましたが、20代後半で仕事が忙しくなったこともあって筆を置き、仕事に専念するようになりました。ただその際に自分の能力不足で体調を崩し、1度休職することとなりました。そのとき休み方がわからず、自分の好きなことをしようと思い再び漫画を描きはじめました。

ーー“休み方がわからない”という心情は本作の女性と重なると感じます。

山田:冒頭で述べました”自身の経験を主人公の女性に仮託”という部分が出たのだと思います。再び漫画を描き続けるなかで創作の社会人サークルに参加するようになり、コミティア(一次創作物の即売会)にサークルとして参加したり、友人ができたりーー。休職前にひとりで描いていたころよりも漫画を量産できるようになりました。

 その後に出版社へ持込をする中で、担当の編集さんが就いてくださり、応募をつづけるなかで漫画賞にも選ばれるようになりました。そのころから本業でも漫画でも勉強し直す時間の必要性を感じ、漫画を兼業で趣味として続けるか専業を目指すかと悩みはじめました。当時の転職情報サイトを見て35歳くらいまでは再就職の募集があるのを見て、心に保険をかけながら決心し退職しました。

ーー最後に今後の活動について教えてください。

山田:具体的な目標は重版です。掲載先に利益をもたらせる作家になりたいです。

 今はギャグ要素の多い作品を描いていますが、笑い以外にも色々な感情の読後感を抱いていただける作劇ができるようになりたいです。

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