もしも「きのこ」に世界を支配されたら……? 管理社会に警鐘鳴らす漫画『菌と鉄』がすごい

管理されることに慣れた人は思考自体が苦痛となる

 この作品世界では、人間は全てを管理されている。

 「怒りの時間だ」の号令とともに一枚の男の写真を見せられると、人々はとたんに怒りだす。その写真の人物を知るものは誰もいないにもかかわらず、人は怒る。この世界では感情も思考も、自分の内から湧き出るものではなく、上から与えられるものなのだ。

 そんな世界で、主人公のダンテだけは「怒れ」と言われても怒れない。それどころか笑ってしまう。彼だけは自分の内なる感情で行動できるのだ。

 自ら思考することを放棄した人々は、もはや思考することそのものに耐えられなくなっている。ダンテが同僚に「エーテルをなぜ倒さないといけないのかわからない」と疑問を投げかけると、その同僚は「兵として訓練する、エーテルを殺す。それ以外のことを俺に考えさせないでくれ」と言って、自分の頭を撃ち抜いてしまう。もはや考えることが苦痛と化している。

 現代社会を生きる我々はどうだろうか。きちんと自分で考え、自分の感情で行動できているだろうか。アルゴリズムの提供する快楽で満足し、それ以外のことを考えなくなってきてはいないだろうか。

 ノイズとなるような情報が入ってくることを現代人は極端に嫌がるようになってきている。テクノロジーの発展で人間の管理はますますしやすくなり、ダンテの同僚のような人間がどんどん生まれているのではないか。

 ダンテは文字が読めないために情報があまり入ってこないのだろう。日々、膨大な情報に晒されて生きている現代人は、それゆえにきっと操作しやすいに違いない。現代社会は、(きのこが支配するかどうかは別として)確実にこのマンガが描くような管理社会に向かっている。

 そんな時代に、人間として生きるためにはどうすればいいか、このマンガは真剣にそれを読者に問うている。まさに、今読まれる価値のある作品だ。

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