【三宅一生】追悼 本で辿る巨匠の功績「衣服はファッションではない。普遍的なデザインである」

「イッセイミヤケ」で広く知られる、世界的なデザイナー・三宅一生(みやけ・いっせい)が、2022年8月5日に永眠。享年84歳。衣服の概念を変えてきた巨匠の功績をいまあらためて本を通して辿ってみたい。

 三宅一生は、1938年、広島県生まれ。多摩美術大学卒業。1970年に三宅デザイン事務所設立し、1973年よりパリコレクションに参加。独自の素材開発にはじまり、「一枚の布」のコンセプトを基に、「ゆとり」や「間(ま)」といった日本的な美意識を取り入れながら、伝統的な技と最先端の技術を応用して生み出される衣服たちは、国内外の人々を魅了してきた。代表作のひとつ「プリーツ・プリーズ」は、いまなお世界中で支持されている。2007年には、東京・六本木「21_21 DESIGN SIGHT」(トゥーワン・トゥーワン・デザインサイト)のディレクターに、デザイナーの佐藤卓・深澤直人らと就任。2010年には文化勲章受章した。

 後年はメディア等にもなかなか姿を現すことがなかった三宅だが、『イッセイさんはどこから来たの? 三宅一生の人と仕事』(HeHe)は、その素顔が覗ける貴重な一冊だ。著者はクリエイティブ・ディレクター/十和田市現代美術館館長の小池一子。学生時代から三宅を知り、その活動を特別な距離感で見守り、関わってきた著者ならではの視点で、三宅の人物像が綴られる。

 加えて本書は、2016年にドイツ「Taschen(タッシェン)」より発売された大著『Issey Miyake 三宅一生』(北村みどり企画・責任編集)に収録された小池一子のエッセイ8章に、書き下ろしの第9章を加えたスペシャルな一冊でもある。また、イッセイ ミヤケ パリ・コレクションの招待状はかつて芸術家の横尾忠則が手掛けており、各章には1977~1999年の期間に手掛けた約30点がカラー図版で掲載されている点にも注目だ。

 三宅は衣服の存在を、一過性の「ファッション」としてではなく、生活と密接に結びついて生まれる普遍的な「デザイン」として捉えていた。

 1987年に刊行された写真家・広川泰士の写真集『sonomama sonomama』(流行通信) は、広川が、植田正治のファッション写真でも活躍したスタイリストのはたきみえと恊働し、全国を旅しながら、旅館の女将、漁師、大工……等、土地土地の生活者にデザイナーズ・ブランドの衣服を着させてポートレートを撮影した、異色の作品集だ。イッセイミヤケを身に纏う農夫のポートレートからは、三宅の哲学や、時代やライフスタイルも超越した衣服としての“ゆるぎなさ”をひしひしと感じる。

 衣服の枠を超え、デザイン分野でも高く評価される三宅。国立新美術館(東京・六本木)では、2016年3月16日(水)から6月13日(月)にかけて三宅の約45年に渡る活動を紹介する大規模な展覧会が開催された。展覧会の図録『MIYAKE ISSEY展 三宅一生の仕事』(求龍堂)は、初期から最新プロジェクト(2016年当時)の全貌を、多様かつ丹念にひも解く、総集編的な一冊だ。

 今回紹介できた書籍はごく一部でしかないが、世界的デザイナーであった三宅一生の一端を知ることができる優れた書籍である。デザインやファッションに興味がなくとも生き方の哲学として何かの一助となることだろう。

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