連載:道玄坂上ミステリ監視塔 書評家たちが選ぶ、2022年7月のベスト国内ミステリ小説
若林踏の一冊:詠坂雄二『5A73(ゴ・エー・ナナ・サン)』(光文社)
実際には存在しないはずなのにパソコンなどには表示される幽霊文字「暃」をめぐる奇妙な小説だ。「暃」の文字を付けた死体が連続して見つかる事件を刑事たちが追う、という展開は一見するとオーソドックスな捜査小説のようだが、「そもそも暃って何?」という謎かけが組み合わさることで、実に摩訶不思議な読み心地になっている。終盤の展開も相当に捻じれたもので、物語の着地点にはもう唖然とするよりほかはない。もともと詠坂雄二は変てこなミステリばかりを書く作家だけれど、その中でも本書の奇抜さはトップクラスに入るはずだ。