『ONE PIECE』尾田栄一郎『HUNTER×HUNTER』冨樫義博『SLAM DUNK』井上雄彦……彼らのある共通点とは?

 『ONE PIECE』の作者・尾田栄一郎、『HUNTER×HUNTER』の冨樫義博、『SLAM DUNK』の井上雄彦。日本はおろか世界的人気の高い漫画家たちである。彼らにはある共通点が存在する。『週刊少年ジャンプ』での連載。正解。それ以外には?

 それは『週刊少年ジャンプ』が主催する漫画の新人賞である「手塚賞」出身者ということだ。次回で104回を数える長い歴史をもち、これまでに数多くの漫画家を輩出している。文字通り日本屈指の新人賞と言っていい。

 そして、このたび発行部数が5億部を突破した『ONE PIECE』の作者・尾田栄一郎は17歳の高校生時代に投稿した『WANTED!』で手塚賞に準入選を果たしている。『WANTED!』はテンポの良い展開、勢いのキャラクターの動き、そしてスクリーントーンをほとんど使わない絵など、『ONE PIECE』に繋がる尾田の作風の萌芽が感じられる作品である。

尾田栄一郎のコメントを考察する

 漫画家として成功を収めてからは、尾田は手塚賞の審査員も務めるようになった。ジャンプには、応募する新人に対して、審査員から激励のメッセージが寄稿されている。その中でもたびたび話題になるのが尾田のコメントだ。いくつか抜粋して原文のまま紹介しよう。

「新人時代僕の漫画は、『変わった絵だねー』と言われ続け、連載初期も『絵がキライ』『変な絵だけど面白いね』枕言葉のように変わってると言われ続けました。そりゃそうでしょう僕は周りと違う事に命を懸けたのです。人と違う事しましょう。あなたにしか描けない、変な漫画、待ってます!!」

「ぶっちゃけ個性的であれば生き残れるんじゃないかと。皆さん読者として見た事ない絵を見たら目が留まりますよね?どっかで見た様な漫画だなと思ったらスルーです。ここでまず第1回戦の勝負はついています」

 尾田が新人に向けてたびたび訴えているのは「個性」の大切さである。個性とは、一目でその漫画家とわかる絵を指す。筆者が好きな漫画家で例を挙げるとすれば、うすた京介、漫☆画太郎、板垣恵介、福本伸行、倉田真由美……などがその筆頭といえるだろう。

 また、2000年代のコミックマーケットで支持されたイラストレーターも個性的な絵を描く傾向が強い。竜騎士07、ZUN、武内崇などは、デッサンが狂っている、絵が下手だなどと言われながらも多くのファンを獲得し、ネット上にはファンアートが溢れた。それはどこか変わっているものの、一度見たら忘れられない絵柄だったためである。

 昨今、漫画家の画力は急激に上がったと言われる。その反面、雑誌をめくるとどの漫画家も技術的には秀でているのだが、個性的で、目を引く絵は減少しているように思える。一般的に「上手い」とされる絵は、技術力に秀でたものだ。ツイッターやインスタグラムでたくさんの「いいね」が得られる、写真を忠実に模写した絵などがそれに当たるだろう。

 しかし、絵画や彫刻の世界でも時代を変えた作品は、最初は一般受けしなかったり、異端視されるものが多い。尾田の漫画も、本人が言うように最初は変な絵と思われていた。それがじわじわと受け入れられていき、今や多くの漫画家が憧れ、インスタ上でアマチュアが模写をする例が相次ぐ人気の絵柄になっている。

 漫画家の卵を叱咤激励し、プロとしての心構えを説くコメントもある。

「手塚賞は半年に1回ですけど単純計算で19Pのストーリー漫画を半年間、週刊連載すると456Pの原稿を完成させる事になります。手塚賞は31Pです。たったそれしきの漫画を描くのに何をウダウダやってるんですか。学校やら何やら差し引いても楽勝です。だって数年度あなたは年間900Pを上げる人間なんだから。とりあえず31P読ませて下さい。頑張れっ!!」

 筆者は数多くの漫画家の卵を取材してきたが、ほとんどの人が原稿を1本仕上げることができない。中には、専門学校に通いながらも、ネームはおろか下描きすらできずに1年を過ごした人もいた。学校が忙しい、バイトが忙しい、アイディアが浮かばない、眠いなど、何かしらの理由をつけて漫画を描かないのである。

プロ漫画家の必須条件とは

 漫画家になるための必須条件は「とにかく1本仕上げること」だと言っていた編集者がいたが、同感である。プロ漫画家の責務は、とにかく〆切までに原稿を上げることである。しかもそのスケジュールは過酷であり、尾田が言うように、週刊連載の場合は1週間に19ページを完成させる必要があるのだ。手塚賞の31ページはその予行演習といえる。

一方で、デビュー前の新人には大きなメリットがある。

 しばし言われる新人の特権は、自由に好きなものを描ける点だ。プロになれば編集者と意見を交わし、時には自分の意見を押し殺してでも1本仕上げる必要がある。原作付きだったり、企業案件のタイアップなど、自身が本来描きたいものと違う仕事に関わることも少なくない。新人にはそうした制約がない。

 中には持ち込みなどで担当編集がつき、ともにデビューを目指しているケースもあるが、基本的には何を描いてもいいのだ。自分がやりたいようにできるぶん、尾田が言う「個性」を出しやすいのも新人ならではといえる。

 こうした漫画家の厳しさを解く一方で、“漫画家ドリーム”を語るようなコメントもある。

「リセマラ?やりません。ガチャ回すからね!ガチャ回し放題!それが漫画家です‼」

「うちのバーベキューで焼くお肉は、ブロックですよ!!なぜなら漫画家だから!!」

 日本一、いや現在世界一知られているだろう漫画家のコメントだから、一層の重みがある。漫画家として成功をしたら、ゲームも、食も、金額を気にせず思う存分楽しめる。なんとも夢のある話である。

 漫画家になる前からなった後のことまで、これほどわかりやすく、そして面白く伝えているメッセージは他にないだろう。そして、滅多にマスコミに露出することがない尾田の、漫画に対する考えが語られている点でも興味深いコメントばかりである。

 そして、第104回手塚賞の〆切は2022年9月30日(金)、当日消印有効である。果たして、尾田を驚嘆させる作品は出現するのだろうか。楽しみである。

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