【漫画】異色の風刺ホラー『反逆コメンテーターエンドウさん』に作者・洋介犬が込めた思い

――それにしても、基本は1話完結ものですよね。話を考えるのが大変に思えるのですが、多忙な中でどうやってネタを収集しているのでしょうか。

洋介犬:本で読んだ事件や、実在の出来事をモチーフにすることが多いですね。また、僕はキーワードひとつあれば、複数の物語を作ることができます。これまで4コマ漫画をずっと描く変態的な訓練を受けているので、ネタ作りに困ったことはありませんね(笑)。

――それは凄いですね! 漫画家がネタ作りに困らないのは、一番の理想なのではないでしょうか。

 洋介犬:ネタのストックがある一方で、脚本の段階では2~3倍のセリフ量があるので、読みやすく削るのが大変です。また、作画にも苦労しますね。デジタル化でかなり恩恵は得ていますが、まだまだ精進が必要だと感じています。

非人間的なキャラには汗をかかせない

――いえいえ、登場する人物の表情の豊かさは、ホラーで培われた洋介犬先生ならではの表現だと思います。灰汁の強いキャラクターばかり出てきますが、それぞれの内面性まで描き分けているのはさすがです。

洋介犬:エンドウさんは人間臭く描いていますが、ケンジロンは相変わらずの鉄面皮を貫いています。この作品に限りませんが、僕は非人間的なキャラは汗をかかせないという法則を用いています。ケンジロンも汗をかいたことがありません。サウナの場面でも彼だけは一滴
も汗をかいていないシーンがあり、そこにもご注目いただければ。

強面のエンドウさんだが、無類の愛妻家でもある。妻の話題となると甘い答えになってしまうのだ。

――そして、読者も気になると思うのですが、社会風刺的な漫画であるがゆえに刺激的な内容も多いですよね。エンドウさんの考えや意見は、洋介犬先生ご自身の考えとイコールなのでしょうか。

洋介犬:これはよく聞かれる質問なのですが(笑)、各々のキャラクターを用意し、議場に集めることが作者の仕事だと思っているので、僕の思想とイコールではありません。もっと端的に言えば、監督と役者のような距離感で接しています。描いている中で、役者がアドリブで話していることも多々ありますよ。

読者の反応は作者にもわからない

――なるほど、洋介犬先生はエンドウさんそのものではないと。ちょっと安心しました(笑)。エンドウさんは読者からの反響が大きい作品だと思いますが、先生も予想していなかった意外な反応もありそうですね。

洋介犬:僕が予想していなかった話が大反響なことも多いですし、賛否両論激しいのでは……と思った回の方が“賛”の率が高いこともあります。なかなか、読者の反応は作者にもわかりませんね。“こどもハーネス”を扱った話は、自分の予想より共感と反響をいただきました。エンタメの成分をギリギリまで削ぎ落としてメッセージ性をむき出しにし、鞘のない真剣のようなコンセプトで始めた漫画でしたが、思いのほかキャラクターが息をし始め、愛されていることには感謝しかありません。

エンドウさんは既存の価値観に異議を唱えることもあれば、賛同することもある。忖度せずに、自らの考えをはっきりと述べる姿勢は一貫している。

――キャラクターが洋介犬先生の手を離れ、ひとり立ちし始めているということなのでしょうか。話題が尽きない作品ですが、今後の展開として計画していることはありますか。

洋介犬:ネタ帳は相変わらず金持ちの財布のようにパンパンですが、社会を見ていると、逆に「こんなにこの世には訴えなければいけないメッセージと問題があるのか」と嘆息することもあります。他の漫画では差し控えるような内容も妖刀の如く斬りかかっていきますので、どうかお楽しみにしていただければ。そして、これからも彼らの住む「世界」を自分たちの世界と等しく、思いを込めてお読みいただければ幸いです。

――『鳥獣戯画』の時代から、漫画の原点は風刺です。「エンドウさん」はまさに漫画の本流をゆく作品だと思いました。これからの展開が楽しみです。

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