『確執と信念』書評 嫉妬渦巻くプロ野球の世界 嫌われ裏切られても己を貫いた野武士たち

 プロ野球という世界で我を通し、己を貫いた結果、嫌われ、衝突し、裏切られていったレジェンドたち。この本「確執と信念」で語られる野武士は5名。

 門田博光、田尾安志、広岡達朗、谷沢健一、江夏豊。

 球界を代表するレジェンドへのインタビューはどれもが硬質な圧を感じる。すんなりとはいかずゴツゴツした会話で進んでゆく重苦しい緊張感。と同時に、不用意にその場にいない人をも傷つける発言の数々。

 貴重な発言ではあるが、あくまでもレジェンドの主観に立った一方向からの言い分でしかなく、本来インタビューは肯定だけではその人物の陰影が生まれない為、読み味に若干の不完全燃焼感は残るものの「嫌われる先輩」側の硬質な言い分にはシンパシーすら感じる。イメージ通りのカテぇ自我。鞘に納まりきらない野太刀の抜き身を晒し、手当たり次第に切りかかる。言っていいことと悪いことの分別を己の間尺に合わせて振り回す。もちろん悪い方の間尺だからタチが悪い。

門田博光は開口一番「友達はいません。ローンウルフです」と突き放す。

 ホームランの歴代通算1位は世界の王貞治の868本、続いての2位が選手としてだけではなく名監督としても謳われる野村克也の657本、そして門田博光の567本が3位に続く。それなのに引退後に監督はおろかコーチにすらならず、一度もNPBに戻ることがなかった理由がそこにみえてくる。

 紳士に見える、田尾安志や谷沢健一ですらプライドを振りかざして孤高の道をゆく。
選手会長として待遇改善を会社に要求し、後輩の給料アップまでも率先して交渉する「球団に嫌われた監督・田尾安志」。

 バリバリの生え抜きスターになっても感じていた外様感の告白と、無駄に星野仙一幻想を(悪い方に)高めてくれる谷沢健一。

 プロ野球界に68年身を置く広岡達朗が日本プロ野球界に残したもっとも偉大な功績は監督時代に指導した選手の中からのちの監督経験者を16人も輩出していること。とかく管理野球を揶揄されるが、各チームのレジェンドたちも一様に感謝を述べている(決して親しみを込めてではないが)。選手時代のやんちゃぶりも含めて、管理野球だけではない広岡達朗の魅力が随所に垣間見られる。

 江夏豊と言えば暴力的なイメージが先行していた分、意外なほどに繊細さが伝わってくる。やった過去は決して消えないが、もつれていた感情のしこりはゆっくりと溶け出していたのかもしれない。様々な文献・映像でも検証されつくしたかに見える「江夏の21球」最後の謎とされる「スクイズ見破りカーブ」の真相については今回も語られていなかった。だからこそ野球は面白いのかもしれない。

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