『鋼の錬金術師』荒川弘の新連載は期待を裏切らない面白さ! 『黄泉のツガイ』の巧みな展開

 荒川弘の最新作『黄泉のツガイ』(スクエア・エニックス)の第1巻が発売された。本作は『鋼の錬金術師』(以下『ハガレン』)以来、約11年ぶりに荒川弘が月刊少年ガンガンで連載している少年漫画。北海道の農業高校を舞台にした『銀の匙 Silver Spoon』(小学館)、田中芳樹の小説を原作とする『アルスラーン戦記』(講談社)といった数々のヒット作を少年誌で描き続けている荒川は、現在の少年漫画を代表する人気漫画家だ。

 中でも『ハガレン』は、錬金術が存在する世界を19世紀ヨーロッパのイメージを用いて描いたダークファンタジーとして絶大な支持を受けた。本作は「何かを得るためには同等の犠牲が求められる」という錬金術における「等価交換」の原理を残酷な形で紡ぎ出した哲学性の高い作品だ。同時に主人公のエドワードの成長を描き切ったド真ん中の少年漫画であり、太い線で描かれたキャラクターたちが印象に残る絵柄には、王道少年漫画の風格が漂っていた。

 斬新なアイデアとクラシカルな普遍性が、絶妙な形で共存するバランスの良さが、荒川弘作品に感じる一番の魅力である。それは最新作となる『黄泉のツガイ』も同様で、期待を裏切らない王道展開と「そう来るのか?」という意外性が共存する、新時代の少年漫画となっていた。

※以下、ネタバレあり

 ユルとアサの兄妹はとある山奥の村で暮らしていた。ある日、バラバラバラという音が上空から聞こえ、ヘリコプターが上空に現れる。同時に銃器で武装した迷彩服の兵士たちが村に現れ、村人たちを次々と殺していく。

 一方、アサは、黒尽くめの服を着た謎の女に襲われる。駆けつけたユルに対して女は「アサだよ 兄様」「むかえに来た」と言う。村と下界を行き来するデラさんに助けられたユルは、謎の敵の追撃から逃れるために「左右様」と呼ばれるツガイの封印を解く。

 ツガイとは「幽霊」「妖怪」「化け物」「UMA」「異形」「対なるもの」など、色々な名称で呼ばれてきた、二体で一つの名前を持つ存在。たとえば、左右様は「右」「左」と呼ばれる男女一組の存在で、角が生えた鬼のような姿をしている。その後、左右様と共に戦いながら、ユルたちは村から脱出。下界は道路やコンビニがある現代の日本だった。

 ここで読者は物語の舞台が現代だったと、はっきりと理解するのだが、説明がないままバトルを交えて逃走劇を展開する物語運びは、実に大胆である。状況の説明がないまま、どんどん話が進んでいくというのが『黄泉のツガイ』第1巻の印象だが、この説明のなさが逆に心地良い。妖怪や異能力にあたる「ツガイ」についても、「二体で一つの名を持つ怪物」という必要最小限の説明しかなく、それぞれのツガイがどのような能力を持っているかという説明がないまま、いきなり戦いが始まる。

 例えば、ガブちゃんと呼ばれている少女が、手を動かして「ガブ」と言うと、村人の体が引き裂かれて手足がバラバラになる。後にこれは、ツガイによる攻撃だとわかる。ツガイ使いのガブちゃんは、無数の目玉が入れ歯についている姿をした上顎と下顎のツガイを操っている。ツガイはふだん、普通の人間には姿が見えないため、突然能力を発揮すると、原因不明の怪奇現象が起きたように見えるのだ。

 怪物を使役する異能力バトルを描く場合、序盤は一体ずつ怪物や異能力を登場させて主人公のバトルを描きながら、世界観を少しずつ見せていくというのが、少年漫画の定石だが、『黄泉のツガイ』は、世界観の説明がロクにないまま、正体不明のツガイとツガイ使いが次々と登場し、それぞれの思惑で動き出すという、混沌とした状況が続いている。

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