『ゴールデンカムイ』で注目、アニマルパニックの王者「ヒグマ」を描いた書籍たち

獲物としてのヒグマ

 久保俊治の『羆撃ち』(2012年、小学館)や、安島薮太 の『クマ撃ちの女』(2019年、新潮社)を読むと、ヒグマに対する見方はさらに変化する。すでに書いた通り、ヒグマは陸上最強の肉食獣であり、仕留めるのは困難だ。ヒグマ撃ちもしていた叔父によると、ヒグマより風下にいて、数箇所しかない急所を本ポイントで狙える角度であり、ある程度の距離がなければ、自信を持って撃てないと話していた。そして、そのチャンスに恵まれることは何度もあるわけではない。必然的に、獲物としてのヒグマの価値は高まる。

 『羆撃ち』も『クマ撃ちの女』も、そんなヒグマに魅せられた狩人の生き様を描いており、読めば狩猟のことを知りたくなること請け合いだ。筆者ですら、狩猟免許を取りたくてムック『狩猟生活』(地球丸、のちに山と溪谷社)を買ってしまった。

 だが、筆者のように狩人に憧れる人が増える一方で、心配なこともある。生前、叔父は、道外からやってくるハンターがヒグマを撃ち損じて手負いにしたまま帰ってしまうと言っていた。仕留められなかったことを恥じて、地元ハンターに相談や報告もしない、と。

 この記事を書くにあたり、気になった部分だったので、地域の役場の方に話を伺った。手負いに関する報告義務などは定められておらず、そこはマナーやモラルに頼っているところだと言う。筆者が、手負いにされたヒグマは復讐心から人里にやってくるのでは、と質問すると、撃たれたヒグマは大抵の場合、山に逃げてしまうそうだ。

 とはいえ、山で手負いのヒグマと遭遇してしまった場合、襲われる可能性はゼロではないらしい。攻撃されたことがないヒグマと比較すると、確率は上がるようだ。

 この記事で紹介したヒグマ本はごく一部だが、これらに目を通すだけでもヒグマの印象がコロコロ変わるはず。『慟哭の谷』や『羆嵐』『シャトゥーン』しか読んでいなければモンスターだろうし、『クマ撃ちの女』や『ゴールデンカムイ』しか読んでいなければ高級食材だと思うかもしれない。どの動物にも言えることだが、ヒグマも人間との関係性で捉えられ方が変化する。筆者はその部分も含めて、ヒグマのことを知れば知るほど、実際に見れば見るほど魅了されてのめり込んでしまうのだ。

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