大槻ケンヂ×ISHIYAが語る、80年代ハードコアの衝撃 「完全に『マッドマックス』の悪影響(笑)」
日本のロックは「はっぴいえんど史観」だけじゃない
大槻:ISHIYAさんの本2冊(前著『ISHIYA私観 ジャパニーズ・ハードコア30年史』)を読んで思ったのは、シーンに語り部がいることはすごく重要だなということです。日本のロックの歴史はあまり長くないですが、語り部が多いシーンによって形作られているところがあって、「はっぴいえんど史観」というべきものが出来上がっているように思うんですね。細野晴臣さんとか、大瀧詠一さんとか、松本隆さんとか、鈴木茂さんの系譜でシーンを読み解くような見方が出来上がっている。それはやっぱり、はっぴいえんどについて書く音楽ライターが多いからだと思うんです。でも、内田裕也さんもずっと言っていたんだけど、日本のロックって本当はそれだけじゃない。それこそ、ジャパニーズ・ハードコアのシーンについてちゃんと書こうとするライターはほとんどいなくて、せいぜい「フールズメイト」や「ドール」の編集者くらいだった。
ISHIYA:もともとライターを仕事にするようなタイプの人は、たしかにあんまりハードコアシーンとかにはいないですよね。
大槻:たぶん、普通のライターがハードコアについて書いても、プロレスラーの書いた本とプロレスファンの書いた本が違うような感じで、シーンの実態は掴めないと思うんです。それが、ISHIYAさんの本によって、ハードコアシーンのことがちゃんと日本のロック史に残された。僕はそれがすごく羨ましく感じました。
ISHIYA:ありがとうございます。でも、たまたま俺がその世界にいて、文章を書いてみたらみんなが良いと言ってくれて、調子に乗って書いていただけです。でも、大槻さんも文筆家じゃないですか。『縫製人間ヌイグルマー』(2006年)とか面白かったです。
大槻:僕もナゴムの歴史とかちゃんと残さなきゃと思ったこともあったんですけれど、年号とか細かい資料とかにあたるのが苦手で、全部妄想で埋めてしまうんですよね。何を書いても、周囲から「いや、そんなことはなかったよ」と突っ込まれてしまう(笑)。
ISHIYA:そうすると、小説になっていくんですね(笑)。でも、大槻さんの小説にはときどき本当の話が入ってきて、そこにはすごくリアリティを感じています。内容がファンタジーなのに中野サンプラザが出てきたりして、そういうところがめちゃくちゃ面白いです。俺もああいうふうに書けたら、この世界の見えないところをもっと表現できるんじゃないかと思ったりします。
大槻:どうしても僕の場合は小説になってしまうので、ナゴムにもちゃんと記録としてノンフィクションを書ける人が必要ですね。逆に、なぜISHIYAさんはこんな風に文章を書けるようになったのですか?
ISHIYA:恥ずかしい話ですが、何度か逮捕されて留置所や拘置所に入ったことがありまして。やることがないから、絵を描くか文字を書くしかなくて、自分の場合は文字を書くのが一番、イライラとか鬱屈したものを発散できることだったんです。もともと本を読むのが好きだったのもあって、中で本を読んだり、思ったことを書いたりしていました。そのうちネットが出てきて、ブログとかで発表できるようになったので、いろいろと書いていたらみんなが読んでくれて。だんだんリアルサウンドみたいなサイトで書くようになって、小遣いぐらいは稼げるようになっていきました。それで、じゃあ自分は文章を書くことで一番何を伝えたいんだ、何を書きたいんだと考えたとき、やっぱりハードコアのことを一番伝えたいなと。それでnoteに「平成ハードコア史」を書き始めたら、みんながたくさん読んでくれて、blueprintから本にしませんかと声をかけてもらった感じです。
大槻:きっと、みんなハードコアについて書ける人を求めていたんでしょうね。
ISHIYA:ハードコアは特殊な世界で、書けない話ばっかりですからね(笑)。
大槻:80~90年代のハードコアシーンについては、バンドマンはみんな噂には聞いていたし、ほとんど伝説化していたところがあったと思います。マサミさんについても、あの右手はヤクザに切られたらしいとか、すでに亡くなったという話も聞いていました。でも、その真相はわからず仕舞いで、謎が謎を呼んでいるような状況でした。それがこの2冊の本によって、どんな物語があったのか、その全体像がようやく掴めました。これは革命的なことだと思います。
ISHIYA:ありがとうございます(笑)。たしかに、当時のライブハウスの事情とかを知っている人は、この本で改めてわかることは多いと思います。俺の場合は実際にその場にいたし、当事者たちと仲が良いからこそ話を聞くことができた部分もあって、おそらく普通の音楽ライターの方が相手だったら話してはくれないような内容だったでしょうね。改めて、取材に協力してくれた仲間や先輩には感謝したいです。
『右手を失くしたカリスマ MASAMI伝』は映画化するのか?
大槻:ハードコアの人たちって『マッドマックス2』のイメージがあるんですけれど、やはり映画の影響とかも大きかったのでしょうか?
ISHIYA:まず『マッドマックス1』の悪役の感じがみんな好きで、『マッドマックス2』でその影響が決定的になったという感じでしょうかね? 個人的にはそこまで影響を受けたつもりはないのですが、周りはみんなバイクに乗って、革ジャンを着て、モヒカンで、物を壊したり盗んだりするようになっていって。人は殺していないにしても、完全に悪影響を受けているとは思いますね(笑)。
大槻:石井岳龍監督の『狂い咲きサンダーロード』とか『爆裂都市 BURST CITY』もハードコアの世界観ですよね。
ISHIYA:俺よりも上の世代の人たちもみんな観てますし、エキストラで出ていたりとか、ハードコアのライブに来ていたお客さんと同じ層が観ていたと思います。
大槻:奇しくもその頃からパンクスが増えていった感じですかね?
ISHIYA:そうだと思いますよ。THE TRASHのヒロシさんはそういう盛り上がりの中でライブハウスのバンド関係の人脈とも繋がりつつ、ディスコでも遊んでいたので、そこで不良文化と混ざっていったみたいです。
大槻:その頃は少年やくざとかも流行っていたと思うんですけど、そっち方面にはいかなかったんですね。僕が不思議なのは、あれだけめちゃくちゃやる人たちがなぜ音楽をやろうと思ったのか? ということです。
ISHIYA:なぜでしょうね。そこはわからないですね(笑)。でも、とにかくディスコで遊んでる頃から、そのうちバンドをやりたいねって言っていたらしいですよ。音楽がもともと好きで、ディスコでメンバーだけが揃って、同時期にハードコアパンクと触れて、ライブハウスに通うようになったという感じだと思います。音楽好きでなおかつ不良をやろうと思ったら、サーファーとかヤンキーじゃなく、パンクしかなかったんじゃないですかね。
大槻:僕らはナゴムレコードでケラさんを中心にふざけたことばっかりやっていたから、いつかハードコアの人にぶん殴られるんじゃないかって怯えていたんですけれど、なぜだかみんな僕らには優しかったんですよね。
ISHIYA:ナゴムの人はみんな面白かったんですよ。演奏はちゃんとしているんだけれど、やっていることがおかしいから笑っちゃう。
大槻:不良同士だと、最初は挨拶がわりに殴り合うのが必要なのかもしれないけれど、僕らは方向性があまりに違うから、殴り合いの挨拶はいらなかったのかもしれませんね(笑)。ところで、『右手を失くしたカリスマ MASAMI伝』は映画化しないんですか?
ISHIYA:俺もしてほしいと思っています。この世界を表現できる映画監督さん、いませんかね?
大槻:かなりバイオレンスな作品になりそうですが、観たいですよね。こんな無茶苦茶な世界が本当にあったなんてこと、今だと信じてもらえないかもしれません(笑)。若いパンクスとか、イガイガの革ジャン着て人をぶん殴ったりはしないですからね。若い子にそういうことを言うと、「パンクっていうのはもっと爽やかで、みんなで歌って……」みたいなことを言われるから、そもそものパンク観が違うんだなと感じてしまいます。だからこそ、映像で表現してほしいです。
ISHIYA:おそらくその当時の、ジャパニーズ・ハードコアがかなり特殊だったんでしょうね。81年くらいからパンクシーンが出来上がってきて、本当に暴力的だったのは最初の6~7年だけだったんじゃないかな。
大槻:いやぁ、面白いですね! そのあまりに特殊で普通の人が知らない6~7年のことを、ちゃんと書ける人が書いたというのが奇跡的です。改めてすごいルポルタージュだと思います。
ISHIYA:その6~7年の衝撃があったからこそ、俺は今こうしていられるんです。俺の常識や世界観はそこで培われたもので、世間一般とは違うかもしれないけれど、とにかくこういう素晴らしい世界があるんだということは広く認識してもらいたいですね。
■ライブ情報
【筋肉少女帯】
2022年8月12日(金) 17:30 / 18:30
Zepp DiverCity(TOKYO)
【すかんち&筋肉少女帯 創業40周年大感謝祭】
出演:すかんち / 筋肉少女帯
【CRUSH OF MODE-ENDLESS SUMMER’22-】
KT Zepp Yokohama
2022年8月30日(火) 開場14:45/開演15:30
出演:メトロノーム / 筋肉少女帯 / Psycho le Cému / ゴールデンボンバー
20minute Special Act:UCHUSENTAI:NOIZ / えんそく / ?????
【特撮】
「特撮22nd 記念『爆誕』完全再現ライブ+X」
2022年 7月 13日(水)渋谷 CLUB QUATTRO
OPEN 18:15 / START 19:00
■書籍情報
『右手を失くしたカリスマ MASAMI伝』
著者:ISHIYA(FORWARD/DEATH SIDE)
ISBN:C0073 978-4909852-27-4
発売日:2022年4月30日(土)
価格:2,500円(税抜)
発売元:株式会社blueprint
blueprint book store:https://blueprintbookstore.com