里見香奈女流四冠の凄さが分かる! 将棋を指す女子たちを描いた漫画が熱い

 里見香奈女流四冠が女流棋士として初めて、プロ棋士によるタイトル戦の本戦に出場を決めて話題になった将棋界。プロ棋士編入試験の受験資格も得て、史上初の「女性棋士」が誕生する可能性も浮上した。里見女流四冠のこうした活躍はどれだけ凄いことなのか。現実に負けない盛り上がりを見せる、将棋を指す女子たちが登場する漫画を読むと、その理由が見えてくる。

 「女性棋士と女流棋士って何が違うんですか?」。そう問う言葉に、机をバアアンッと叩いて「全然違います!」と叫ぶのは、女流棋士の山口恵梨子二段。漫画家のさくらはな。と共著で二千二十年に出版したエッセイコミック『山口恵梨子(えりりん)の女流棋士の日々』(竹書房)に収録の「女性棋士と女流棋士」というエピソードで、女流棋士は女性だけの公式戦を戦う棋士だということを解説している。

 藤井聡太五冠や名人位を持つ渡辺明二冠、当時の全タイトル制覇を成し遂げた羽生善治九段と同じ「プロ棋士」になるには、日本将棋連盟の奨励会で半年ごとに開かれる三段リーグで上位二人に入り、四段に上がる必要がある。柳本光晴による漫画『龍と苺』(小学館)でも、中学二年生ながらほんの数日で将棋を覚え、とてつもない強さを見せるようになった主人公の藍田苺の周囲で、奨励会に入りまずは三段リーグ入りを目指す将棋指しが登場する。

 その中の水沢蒲公英は、高校生ながら「女王」のタイトルを持つ女流棋士だが、奨励会ではまだ一級で、男子に混じって苦闘を続けている。アマチュア竜王戦でベスト4に入り、奨励会の入会試験に合格した鴨島凛々も同じ。女流で強いから、男子に混じりアマ棋戦で好成績を収めたからといって、プロ棋士になれる訳ではない厳しさをうかがわせる。

 奨励会で戦う女子は、くずしろ作『永世乙女の戦い方』(小学館)にも登場する。主人公は、七つある女流のタイトルを独占している天野香織に憧れ将棋を始めた高校生の早乙女香。そのライバル役として登場する須賀田空という中学二年の女子が奨励会二段で、三段リーグ入りを目指して戦いながら、奨励会員でも女子なら出られる女流棋戦に出場し、香と激突する。

 最新第七巻で、兄の須賀田蒼が奨励会三段時代、同じ奨励会三段だった天野香織と対局して敗れ、四段昇段を逃しそこから引きこもり気味になってしまった過去が明かされる。女子には女流として活躍する道があると兄に言われ続け、疎まれ続けたことから女流への嫌悪感をあらわにし、将棋に執念を乗せる空と、天野香織に追いつくことだけが目標の香のどちらが強いのか。女流は別腹めいた風潮に挑むような展開だけに、行方が気になる。

 確かに、四段に上がれなければ後がない男子と違い、女子には女流という世界があって賞金を得たり、普及に携わったりしてお金を稼げる。ただ、五月二十六日に出たさくらはな。と山口恵梨子女流二段の共著の続編『山口恵梨子(えりりん)の女流棋士の日々 攻める大和撫子編』(竹書房)によると、女流棋士が普及活動で一種の広告塔となっていた状況が変わって、強さが求められるようになったと書かれている。

 ここに、里見女流四冠の活躍が乗ることで将棋をしてみたい女子が増え、裾野が広がって蒲公英や空のようなプロ棋士に挑む女子も続々と生まれて、将棋漫画のフィクションをノンフィクションに変えてくれるかもしれない。現実がフィクションを追い越すなら、フィクションは現実を変える展開を描く。そうした切磋琢磨が、今の将棋漫画の熱さを支えていると言えそうだ。

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