犯人目線だと金田一少年は“サイコ”? 原作愛あふれる『犯人たちの事件簿』が面白い
日本が誇る名探偵漫画といえば、『名探偵コナン』と『金田一少年の事件簿』ではないだろうか。90年代に連載が始まり、アニメ化、実写ドラマ化、映画化、スピンオフと、擦り切れるほど使いまわされている。
筆者はどちらの作品も大好きだが、厨二病真っ盛りのときに愛読していた『金田一少年の事件簿』に強い思い入れがある。
トリックを暴こうと躍起になるが、大抵のトリックは「そんな馬鹿な」な展開ばかりだ。だが、突っ込みたくなるのは読者だけではなかったのだ。なんと、自らトリックを考案し、実行している犯人たちでさえ「そんな馬鹿な」と思っているものも。
というわけで、今日は犯人たちの裏話が楽しめる、船津紳平の『金田一少年の事件簿外伝 犯人たちの事件簿』(講談社)について語っていきたいと思う。
犯人は苦労人
サスペンスミステリー作品に欠かせないのが、トリックだ。罪を逃れるために犯罪の伏線をはり、しっかり回収し、周囲の目を欺く。凡人には到底想像もつかないトリックに毎回舌を巻いたものだった。『金田一少年の事件簿』に登場する犯人たちは、IQ170レベル(ちなみに金田一はじめはIQ180)のトリックを即興で考える。
とはいえ、多くのトリックが、犯人のフィジカルと綿密な計画(数年単位)に依存するものばかりで、基本的に犯人は弱音を吐く。弱音を吐きながらも、すでに「トリック」という名の列車は走り出してしまっているので、終着地(無罪)に向かうべくフィジカルを酷使する。
こういった犯人たちの「無茶」が読んでいてとにかく楽しい。読者が抱いてきた違和感や疑問に、犯人自らがどんどんツッコみを入れてくれるし、「どう考えても無理があるだろう」と呆れ半分で読んでいたトリックも、犯人だって無理だと感じていたのがわかるからだ。読みながら、ついつい「ですよね~」と言ってしまう。
原作に対するリスペクトがすごい
しかも原作への愛が溢れているので、原作ファンとして読んでいて気持ちがいいし、青春の追従体験までできる。
というのも、話数ごとの絵がオリジナルにそっくりなのだ。『金田一少年の事件簿』は連載を重ねるごとに絵が洗練されていった。1~5巻くらいまでは、金田一は幼顔で、美雪はカチューシャの位置が手前すぎるなどの気になる部分があった。『金田一少年の事件簿外伝 犯人たちの事件簿』はそれすらしっかり再現してくるのだ。
「美雪のカチューシャ、もう少し上にずらしたい……」などと本筋から外れた感想を持ってしまい、リックに集中できなかった青春が鮮明に思い出される。
また、作品をしっかりと読み込んで解析しているからこそ、犯人たちの個性を非常にうまく書き分ける。ネタバレになりたくないので詳細は書かないが、手を変え品をかえ、よくもこんなにネタの引き出しがあるものだ、と感心させられてしまう。