女性警察官の2人組活躍する“バディ漫画”はなぜ人気? 『ハコヅメ』のヒットで振り返る名作たち

 2人組の女性警察官が大活躍するコミックといえば、今は泰三子の『ハコヅメ~交番女子の逆襲~』が大人気だ。そこに藤島康介の『逮捕しちゃうぞ』や、みず谷なおき『ブラッディエンジェルズ』を源流として持ち出す人がいたり、もっと遡って柳沢きみお『ミニぱと』こそが元祖だという人がいたりして、話はどこまでも広がっていく。ここで重要なのは世代間での言い争いではなく、女性警察官によるバディストーリーが世紀をまたいで描き継がれているということ。支持されるポイントはどこにあるのだろうか。

 とことんリアル。それでいて爆笑できるエピソードを連ねて、警察官の世界がどうなっているのかを教えてくる漫画が『ハコヅメ~交番女子の逆襲~』だ。警察学校を出た川合麻依が最初に配属されたのは、岡島県警町山警察署の交番。赴任してすぐに交通違反者から「税金泥棒」と憎悪を向けられ、激務も重なってもう辞めようと思い始める。

 そこに、刑事課で事件の捜査をしていた藤聖子が、「パワハラをして左遷された」という触れこみ赴任してきて、川合とペアを組むことになる。いじめられるのではと川合が不安がり、辞めたい気持ちを募らせるも当然だ。けれども、藤がすぐさま空き巣を捕まえ有能さを示しつつ、仕事にグチをこぼすところは自分と同じと分かってひと安心。同時に、市民の安全を守る仕事への使命と誇りを感じ取り、自分もしばらく続けてみようと考え直す。

 このことが、川合にとって幸運だったのか不幸だったのかは、単行本で20巻を重ねてもまだ分からない。食事がとれず部屋にも戻れない激務が続くわ、機動隊上がりの猛者たちを相手に逮捕術を鍛錬させられるわと、普通の会社では経験できないことにぶつかるからだ。当人にとっては大変だが、漫画の読者はそうした日々に文句を言う警察官たちの人間らしさが魅力的に映る。警察官の日々の仕事ぶりや警察内部の状況がうかがえるところも面白い。

 最新刊の第20巻で描かれる「伊賀崎警部補の胸襟」シリーズは、川合と藤が詰める交番の所長をしている伊賀崎秀一が、サボってばかりで現場に責任を押しつける、絶対に上司にしたくないタイプの警察官に見えて、過去に驚くような経験をしていたこと、そこで今の姿から想像もできない有能さを発揮していたことが描かれる。同時に、交通違反の取り締まりや泥棒の逮捕などに勤しんでいる現場とは違った、過酷な最前線が警察にはあることも見えてくる。

 そうした警察の奥深さを、藤と川合の女性警察官ペアの日常を通して見せてくれるところも、『ハコヅメ』の大きな魅力だ。伊賀崎所長に比べれば駆け出しに過ぎない藤や川合がこれからどのような経験を積み重ね、警察官として成長していくかも楽しめそう。作者の泰のように辞めて漫画家に転身する、などということもあったりして。

 元女性警察官が描くだけあって、相当なリアリティを持った『ハコヅメ』とは真逆に、柳沢きみおが1977年から1979年にかけて「月刊少年チャンピオン」で連載した『ミニぱと』には、現実には絶対にいそうもない女性警察官のペアが登場する。なにしろ主人公のひとり、青井ひとりは中学校を出たばかり。もうひとりの主人公、五月の上司が姪の頼みだからと採用した。

 だったら五月はまともかというと、パトロールに使う車が自分で買ったモーリス・ミニ・クーパー。交通違反者を捕まえては殴り、つぼみを脅すヤクザを蹴り、逆らう相手にはマグナム拳銃をぶっ放す。すでに「週刊少年ジャンプ」で連載されていた『こちら葛飾区亀有公園前派出所』に負けない、警察官を主人公にした破天荒なドタバタギャグ漫画があったこと、それを『翔んだカップル』や『特命係長 只野仁』の作者が描いていたことを、『ハコヅメ』のヒットが思い出させてくれた。

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