転生者は悪? 勇者が魔王軍に就職? 設定が逆転した異世界系ラノベが人気を拡大中
勇者変じて魔王軍の幹部となる。『勇者、辞めます~次の職場は魔王城~』から始まるクオンタムのシリーズも、魔王を倒して終わりといったフォーマットをズラした面白さを味わえる作品だ。少女の姿をしたエキドナという魔王に率いられた魔王軍を退けたのは、レオ・デモンハートという名の勇者。余りの強さに仲間のはずの人間が、「魔王より強い怪物がいる」と引いてしまい、魔王に変わって世界征服に乗り出すのではと恐れてレオを排除しようとした。
そんな勇者だったら辞めてやると、街を飛び出しレオが向かったのが魔王軍。レオに敗れて不足気味の勢力を補充しようと行われていた新生魔王軍の採用面接に乗り込んで、面接官のエキドナを前に「一対一で魔王エキドナを打ち倒した実績あり。即戦力として活躍可能!」と叫んだらどうなるか? もちろん不採用。かつての戦闘で知り合った四天王たちからも呆れられる元勇者という構図が笑いを誘う。
人間を守る勇者が、人間を殺す魔王軍に寝返るなんてと思われそうだが、そこに一工夫があってエキドナは、侵略はしても無駄な殺生はしないことを方針にしていたため、魔王軍に転職したレオが人間世界を滅亡に追い込むような殺伐とした展開には向かわない。正体を隠して魔王軍に潜り込んだレオが、武だけではなく文の能力も発揮して魔王軍を立て直していく展開がメイン。こちらもアニメ化された鳥羽徹『天才王子の赤字国家再生術~そうだ、売国しよう~』(GA文庫)と共通の、経営ラノベ的な面白さを感じ取れる。
最新の『勇者、辞めます3~次の職場は魔王城~』では魔王軍の食糧事情を改善するため、農業にも乗り出すレオ。そうした状況へと至る過程で、レオという存在がただの勇者ではないという、SFともとれそうな設定が浮かび上がって、物語世界への興味もぐんぐんとかき立てられる。
魔王を倒した後の勇者一行の物語として人気の山田鐘人/アベツカサによる漫画『葬送のフリーレン』(小学館)とも違った面白さを持った“後日譚”のストーリーを、ラノベの原作で読みコミカライズ読み放送中のアニメも見て楽しんでみてはいかがだろう。