転生者は悪? 勇者が魔王軍に就職? 設定が逆転した異世界系ラノベが人気を拡大中

 異世界に転移・転生して人生をやり直す。勇者となって世界を平和に導く。現実ではかなえられない願望を、物語の中で体感させてくれる作品が幾つも書かれてヒットしてきた。そしていま、面白さを保証するそうしたフォーマットをひっくり返すことで、驚きをもたらしてくれるライトノベルが登場し、アニメ化もされてファンを広げている。佐藤真登の『処刑少女の生きる道(バージンロード)』(GA文庫)と、クオンタム『勇者、辞めます~次の職業は魔王城~』(ファンタジア文庫)だ。

 退屈な日常から逃げ出したい、辛かった人生をもう一度やり直したいという願望が、異世界に呼ばれて新しい生活を始める物語を、幾つもベストセラーへと押し上げて来た。それらに触れて、異世界に行けば夢がかなうという認識に、どっぷりと浸るようになった人が、もしも異世界に召喚されたら? おまけに異能も使えるようになっていたら? 目の前にバラ色の世界が開けているように見えるだろう。

 ミツキという名の少年もそう思った。異世界に召喚されたと知って、ここからすべてが始まると喜びに震えていた所に一閃、少女から繰り出された短剣が頭に突き刺さってゲームオーバーとなってしまった。いったい何が起こったのか? ドキッとさせられたところから、「処刑少女の生きる道」というシリーズは本当の開幕を迎える。

 舞台となっている世界には、古くから大勢が別の世界からやって来ていた。技術も伝えられて世界の発展に役立っていた。マヨネーズだってあるというから、製造技術を持ち込み独占することで財を成すという設定の伊藤ヒロ『マヨの王 ~某大手マヨネーズ会社社員の孫と女騎士、異世界で《密売王》となる~』(ダッシュエックス文庫)のようなサクセスも期待できない。

 それどころか、異世界からの「迷い人」はやがて異能を暴走させて世界を崩壊へと導く悪しき存在とみなされていた。ミツキが殺されたのもそれが理由。殺したのはメノウという少女で、世界を仕切る教会から派遣され、「迷い人」が現れたら即座に抹殺する“処刑人”のひとりだった。メノウは殺す前のミツキから、実はもうひとり召喚されていたことを聞いて抹殺に向かう。

 見つけたのはアカリという名の女子高生で、メノウは助けふりをして誘い出したアカリの首筋に短剣を突き刺す。ところが、アカリに備わった何かの能力が発動したのか、傷跡すらない姿で立ち上がってメノウに早く逃げようと呼びかける。メノウはアカリを確実に殺すという使命を内に秘めながら、自分を信じるアカリとともに旅に出る。

 異世界人が世界にとって救世主どころか災害に等しい存在という設定がユニークだ。転移したとたんに殺されるとあって、読んで願望を満たしたいという気持ちは冒頭であっさり蹴散らされる。ただ、物語はそこから殺す者と殺される者が連れ立って旅をする中で、それぞれの気持ちに変化が生まれていく過程が描かれて、コミュニケーションの価値といったものを感じさせてくれる。

 世界では過去に何度か「迷い人」の能力が暴走し、『塩の剣』『霧魔殿(パンデモニウム)』『絡繰り世』『星骸』といった大人災(ヒューマン・エラー)がもたらされて、今も深い傷跡を残している。そうした厄災の真相にも迫るストーリーを経ながら、『処刑少女の生きる道6―塩の柩―』まで来てメノウの出生の秘密が明かされ、メノウとアカリの関係に決着がつく。そして最新刊『処刑少女の生きる道7―ロスト―』で新章へと突入する。

 異世界人は世界の敵という逆張りで驚かせながら、そこに留まらず強大な敵とのバトルがあり、世界の謎に迫る冒険がありといったスケールの大きな物語へと発展していったシリーズが、これからどこまで広がっていくのかを今は見守りたい。

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