こんな警部がいたら大問題だけど楽しそう? 『美味しんぼ』中松警部の豪傑エピソード

 漫画『美味しんぼ』で最も豪快な登場人物といえば、銀座中央署の中松警部だ。「鬼の中松」と称されるほど恐れられている彼は、作品中でさまざまな騒動を巻き起こしてきた。そんな彼の豪快すぎるエピソードと魅力を検証しよう。

法律よりも男気?

 中松警部は時に法律よりも人情を取ってしまうことで、読者の記憶に強烈に残るエピソードを提供している。

 「そばつゆの深み」では、屋台のそば屋を無許可で営業していた店主を咎めた警察官に割って入り、「うるせえ余計な口出しをするんじゃねえ」と啖呵を切ると「もりそばを作ってうまかったら営業を許可してやる」と勝手に決めてしまう。さらに「1ヶ月以内に俺を満足させることのできるツユを作れ」と期間限定ながら、事実上、無許可営業を認めた。

 また、山岡士郎が幼少期にお世話をしてくれた本村の送別会に「本物の牡蠣」を出したいと暴走族・サンダーボルツのリーダーが運転するバイクに乗って伊勢志摩に行き、牡蠣を確保して日帰りで送別会まで戻った「鮮度とスピード」という回も衝撃的だ。山岡をバイクに乗せたリーダーが夜に開催される会のために猛スピードで公道を走り、免停必至と思われるような運転をする。ところが送別会を主催する唐山陶人の計らいで、サンダーボルツの面々はなぜか無罪放免となっており、警察署のなかで中松警部が笑顔を浮かべていた。

 これらは現実に起これば大問題なのは明らかで、当然ながら「警察官にあるまじき行為」という批判もある。しかし、あくまでフィクションであり、中松警部の行動には「人を助けよう」という心があることは、気に留めておきたい。深夜の暴走を許すのはさすがにやり過ぎではあるが、そのぶっ飛んだところも『美味しんぼ』の魅力かもしれない。

悪を懲らしめる暴力

 中松警部は「鬼」と呼ばれるほどの怖さを持つ。武勇に長けており、特に剣術の腕前は一級品だ。

 そんな彼が正義のために暴力をふるったのが、「スパイスの秘密」である。過去に妻とつながっていた反社会勢力の男が自宅に押しかけてきたことから喧嘩となり、記憶喪失となったカレー屋の男。実は、記憶喪失は妻の過去を聞いていなかったことにするための芝居で、中松警部と協力を求められた山岡に「力を貸してくれ」と頼んでいたのだ。事件解決後、中松警部は男を「知能犯だぜ」と褒めていた。

 過去にとらわれず、カレー屋として新生活を始めることになった夫婦。ここで気になるのは、全ての元凶となった反社会勢力の男である。男は肩の骨を折って入院中だったが、中松警部は「ところであの男、新橋に入院中だったけれど、不思議なことにもう一方の肩の骨も折っちまってな。東京にいるとすべての骨が折れると言って車で逃げ帰ったそうだ」と語る。

 山岡が「手洗い見舞客がいたんだろう」と笑うと、なぜか中松警部は咳をしていた。中松警部に目をつけられた悪漢は、不運というしかない。

一途な愛ゆえの揉めごと

 アイスクリーム屋の歌子に惚れた中松。歌子の作るアイスクリームが美味しくないことを知ると、人気店をめぐり、そのノウハウを根掘り葉掘り聞こうとして、揉めごとになる。

 様子を目撃した山岡に追及されると「女に惚れた」とポツリ。山岡に笑われ、栗田ゆう子までが大爆笑するという光景は、最終的に歌子の美味しいアイスクリームづくりに協力することになるものの、不憫にも見えた。

 そんな中松警部は歌子のまずいアイスクリームを「うめえ」と絶賛しており、山岡と栗田に「うめえよな」と同意を求めるシーンも。もちろん味にうるさい山岡は全否定するのだが。

 山岡の提案で日本刀を持ち、アイスクリームを真っ二つに切って美味しいアイスクリームの作り方を教え、結ばれた中松警部と歌子は、その後、愛を実らせ結婚することになる。中松警部は他の女性に目を向ける描写もなく、ずっと歌子を愛し続けていた。そしてこの一件で山岡に大きな恩義を感じ、力を貸していくことになる。

関連記事