元駐ウクライナ大使が伝える、複雑で懐の深い歴史とは? 黒川祐次『物語 ウクライナの歴史』を読む

 オデッサ出身者以外を見ても、ウクライナは人材の宝庫である。「鼻」「外套」などの小説で知られる、ロシア文学を代表する作家・ゴーゴリもウクライナ出身。美術様式「シュプレマティスム」を唱えた画家のカジミール・マレーヴィッチ、免疫学の創始者でノーベル生理学・医学賞を受賞したイリア・メチニコフ、ヘリコプターの実用化に貢献したイゴール・シコルスキー、「鳥人」の異名を持つ棒高跳び選手のセルゲイ・ブブカなど、枚挙にいとまがない。

 政治家・軍人にもユニークな人物がいる。本書で「ウクライナ史最大の英雄」とされているボフダン・フメリニツキーは、50歳を過ぎてから自らのそしてウクライナの運命を大きく変えた男として歴史に名を残す。

 フメリニツキーはウクライナの小領主の息子として、1595年に生まれる。支配国ポーランドに従う自治的武装集団「コサック」の隊長を務め、その後は領地の経営に専念していた。ところが1647年、ポーランドの貴族に土地の所有権を主張され襲撃に遭う。法廷・議会・ポーランド国王、あらゆる相手に助けを求めるも、救いの手が差し伸べられるどころか逆に逮捕されてしまう。友人の助けを得て脱獄に成功すると、フメリニツキーは反乱を決意。ポーランドの圧政に不満を募らせていたコサックや農民たちを仲間に迎えて挙兵すると、ポーランド軍を次々と撃破していくのだが……。

 ウクライナの歴史を俯瞰し各時代の主要な出来事を満遍なく取り上げている本書は、この国の大枠を把握するのに最適な一冊となるだけでなく、文化や人への興味も掻き立てられる。毎日メディアから流れてくるウクライナ関連のニュースも、背景や文脈を把握し関心を持って触れると、より理解が深まるはずだ。

関連記事