連載:道玄坂上ミステリ監視塔

連載:道玄坂上ミステリ監視塔 書評家たちが選ぶ、2022年2月のベスト国内ミステリ小説

 今のミステリー界は幹線道路沿いのメガ・ドンキ並みになんでもあり。そこで最先端の情報を提供するためのレビューを毎月ご用意しました。

 事前打ち合わせなし、前月に出た新刊(奥付準拠)を一人一冊ずつ挙げて書評するという方式はあの「七福神の今月の一冊」(翻訳ミステリー大賞シンジケート)と一緒。原稿の掲載が到着順というのも同じです。

 オミクロン流行にウクライナ侵攻で緊迫する国際情勢と、気の休まらないことは多いですが、せめて読書で気晴らしをどうぞ。

野村ななみの一冊:鴨崎暖炉『密室黄金時代の殺人 雪の館と六つのトリック』(宝島社文庫)

 「このミス」大賞文庫グランプリ受賞作は、とにかく密室づくしだ。ある判例により、密室殺人が多発している日本。主人公が泊まる館は陸の孤島となり、さらに連続密室殺人が発生する。一人二人と消えていく関係者、次々と現れる多様な密室。主人公たちがその謎に挑む一方で、繰り返される事件に読者の感覚は麻痺し、やがてこう考える。この密室トリックはどう解かれるのだろう? ホワイダニットよりハウダニットを求めた時点で、著者の術中に違いない。作り込まれた密室はもちろん、散りばめられたミステリ関連の小ネタにもぜひ注目を!

千街晶之の一冊:麻加朋『青い雪』(光文社)

 穏やかな別荘地で起こった失踪事件、名家の忌まわしい秘密、血の因縁に翻弄される若者たち……。日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞した『青い雪』は、一見古めかしい小説に思えるかも知れない。しかし、目新しいテーマやモチーフを中心に据えたミステリが多い中、こういう小説は一周回って新鮮に感じられる。本作には何か大きなトリックが用意されているわけではないけれども、トリックを抜きにして細かいプロットのひねりだけでこれだけ魅力的な謎とサスペンスと結末を編み上げてみせたあたり、実に非凡な新人が登場したものだと思う。

藤田香織の一冊:宮西真冬『彼女の背中を押したのは』(KADOKAWA)

 元書店員の梢子は、結婚し退職する際に、情緒が不安定な妹のあずさをアルバイトとして店に雇ってもらった。感情的で思ったことがだだ漏れになる母。妻にも娘たちにも無関心な父。人目をひく容姿を持ちながら上手く生きられない妹。すべてを捨てて結婚に「逃げた」梢子のもとに、あずさがビルから転落したとの知らせが入るーー。自殺か事故か、その理由は?といった謎要素自体も読ませるが、やりがい搾取や女性の自立といった難題を含むディティールがぐさぐさと胸に刺さる。「ほんとそれな」と20回は呟いてしまったよ。構成も巧いです!

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