ピーチボーイリバーサイド、桃太郎殺し太郎、桃源暗鬼……常識を覆す“桃太郎漫画”3選

 「1番馴染みが深い童話は?」と聞かれれば、ほとんどの日本人が『桃太郎』と答えるのではないか。そして2022年を迎えた現代、数百年続く“桃太郎ブーム”が、またしても漫画界に押し寄せている。

 2021年7月には漫画『ピーチボーイリバーサイド』がアニメ化され、元旦に配信されたまんが未知の特番「本当にすごい漫画はコレだ!2022」でも、『桃太郎殺し太郎』が大きく取り上げられた。

 そこで本稿では現代版「桃太郎漫画」の魅力を解説し、上記2作を含めたおすすめ作品を紹介していく。

 前提として、現代創作物と童話は非常に相性が良い。なぜなら誰もが知る童話は、スタートの時点でフリが効いているからだ。例えば皆が“厳かで美しいかぐや姫”を知っているため、“日焼けしたギャルかぐや姫”が描かれれば、興味を唆られページをめくりたくなるだろう。漫画や映画ではフリやギャップが大切だ。すでに国民に浸透している物語の存在は、創作物の題材にもってこいと言える。

 また漫画の中でも特に少年漫画には、欠かせない要素がいくつかある。日本最大級のランキングサイトである「gooランキング」は、「日本の昔ばなしといえば?」のトップ5を1位から順に『桃太郎』『浦島太郎』『鶴の恩返し』『かぐや姫』『花咲かじいさん』と発表した。そして挙げた5作品の中で、本格的なバトルシーンがあるのは『桃太郎』のみなのだ。人間vs鬼の戦いは、現代の漫画好きにはたまらない構図と言える。また3匹のお供が登場するのも、非常に高ポイントだろう。特定の動物はキャラ付けしやすく、擬人化するのも面白い。知名度や内容からみても、桃太郎をテーマにした漫画のブームは必然と言えるだろう。

『ピーチボーイリバーサイド』

 『ピーチボーイリバーサイド』はクール教信者の作品だ。コミック配信サイトである「週刊ヤングVIP」で連載中で、ヨハネが作画を担当し「少年マガジンR」でもリメイク版を連載している。

 平和な国・アルダレイクの姫であるサルトリーヌ・アルダレイクは、外の世界に憧れていた。そして時を同じくして、アルダレイクに迫る鬼の魔の手。しかし日本から少し離れたその大陸には、誰もが知る桃太郎が上陸しているのだった。

 彼がすごいのは鬼を倒したこと、喜ぶべきは民を救ったこと。1つだけ駄目だったことは、鬼退治を楽しんだこと。果たして桃太郎の桃は、日本に流れ着いた1つだけだったのか。サリーの危険と欲に塗れた冒険が始まる。

 本作は童話では完全な“善”である桃太郎を、鬼の惨殺を楽しむ少年として別角度から描いている。また舞台がヨーロッパをモデルとしており、鬼だけでなく亜人も登場するため、王道のファンタジーが好きな人でもしっかりと楽しめるだろう。

『桃太郎殺し太郎』

 成瀬乙彦作の『桃太郎殺し太郎』は、Twitterへの投稿から始まった漫画だ。KADOKAWAの「コミックウォーカー」にて連載中で、単行本の1巻が3月4日に発売される。

 初代桃太郎から力を授かった、3人のお供たち。彼らは力を後世に伝え、子孫は桃太郎役として「御三家」と呼ばれている。対鬼戦では異常な強さを発揮する桃太郎役だが、その中の1人である犬飼静三郎は鬼を殺す所業に疑問を抱いていた。

 しかし付き人である七郎を守るため、静三郎は今日も刀を振るう。そこに現れた1人の子供。「鬼なら童でも容赦はしない」と立ち向かう静三郎の息の音を、彼は刀の一振りで止めた。これは「桃太郎が鬼を殺す物語」ではなく、「桃太郎殺し太郎が桃太郎を殺す物語」だ。

 舞台は戦が閉幕した、数百年前の日本。本作の特徴は鬼側の視点が多く、鬼の事情もしっかりと描かれている点だ。また桃太郎殺し太郎自身は鬼ではなく、そこもキーポイントになっている。まだ発表話数が少ないため、気になった人は気軽に読んでみてほしい。

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