【今月の一冊】現代若者論から文学賞受賞作まで、各出版社の「新人作品」を紹介

『駆ける 少年騎馬遊撃隊』稲田幸久


 選考委員の満場一致にて、第13回角川春樹小説賞を受賞した、稲田幸久のデビュー作『駆ける 少年騎馬遊撃隊』。2021年、多くの歴史小説ファンを唸らせた快作だ。

 毛利元就の次男・吉川元春に拾われ、馬術の才を見出された少年・小六と、尼子再興を願う猛将・山中幸盛(鹿之助)。ともに戦火で愛する者を失ったふたりが、譲れぬ思いを胸に、戦場でぶつかる。勝つのは無垢なる魂か、それとも復讐の刃かーー。

 人馬にフォーカスした、細やかで躍動感のある描写と、「善は善、悪は悪」というトートロジーに陥らず、読み返すごとに深みを増す、熱き武将たちのドラマ。戦場のリアリティと知略戦の妙がともに高い解像度で描かれており、メジャーとは言い難い武将たちの印象は、読後にガラッと変わってしまう。心理描写のわかりやすさ、会話劇のテンポのよさも含めて、歴史に深い関心を寄せない読者でも、まさに「駆ける」ように読了できる作品といえるだろう。「新人作家の仕事とは思えない」という評判が広がるのも頷ける完成度だ。

 すでに、角川春樹小説賞の選考委員でもある歴史小説の巨人・北方謙三と比較され、当の北方は「小説として一番大切な、心に響く部分が書いてある」と語り、大の北方ファンで知られるアーティスト・吉川晃司は「これで、北方謙三も心おきなく筆を置けるか!?」とのコメントを寄せている。

 著者インタビューでは続編の構想も明かされている……というより、そもそも構想していた結末に行き着くはるか手前で本作がまとまってしまったというのだから、特に歴史小説ファンには新たな楽しみが生まれたといっていいだろう。ドラマ化やコミカライズの可能性も含めて、今後の展開に期待できるシリーズになりそうだ。(橋川良寛)

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