【今月の一冊】現代若者論から文学賞受賞作まで、各出版社の「新人作品」を紹介

『虚魚(そらざかな)』新名智


 2019年に「横溝正史ミステリ&ホラー大賞」として「横溝正史ミステリ」と「日本ホラー小説大賞」が統合され、2021年は新名智『虚魚(そらざかな)』(KADOKAWA)が受賞した。本作はまさに同賞にふさわしい作品だと思う。

 “人を殺せる怪談”を探す怪談師・三咲と、同居人であり、呪いや祟りで死にたい自殺志願者のカナ。カナが「釣り上げると死ぬ魚がいるらしい」という怪談を釣り堀で聞き、利害が一致しているふたりと、三咲の元恋人であり、怪談オタクの大学院生・昇も加わって、真相を確かめるため怪談の元となった現場へ向かうのだが……。

 怪談をめぐるホラー要素と、それを取り巻くミステリ要素が潰しあうことなく、お互いを引き立てている。読者によってホラーという人も、ミステリという人もいるだろう。しかも、本作はそこに留まることなく、「怪談とは?」「呪いとは?」「なぜ人はそれを語るのか?」という大きなテーマへと向かう。読み始めたときには想像もできなかった着地には、ここ数年間はなかった心からの感動を覚えた。三咲とカナの関係性の変化も素晴らしく、怪談を通じてこんな人間模様を描けるのかという驚きもあった。読了後には早くも次作に期待している自分がいた。(佐々木康晴)

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