かが屋・加賀翔が語る、初の小説『おおあんごう』に込めた思い 「自分の経験が人の気持ちを軽くできたら」
読者のバックグラウンドで感想が変わる作品に
ーー『おおあんごう』を読んで、人生の面白みというか、おかしみみたいなものをずっと感じていて。
加賀:嬉しいです。
ーー主人公の草野くんにとって、みんなが笑ってくれることがすごく助けになったんだなと思いました。加賀さんが生きてきた中で獲得してきた種みたいなものが、草野くんを通して開花したように感じたんですが。
加賀:そうですね、投影ではあります。自分がこれまで集めてきたものを小説にするってなったときに、何か一個伝えたい、何かを感じてもらいたいと思ったんです。それで、昔はそういう風には思えなかったけど、今は思えることを子どもに託して、そこで面白がってもらえたらいいのかなと。書いてから気づきましたが、自分の経験が人の気持ちを軽くできたらっていうのは、結構大きくあるかもしれないですね。
ーー草野くんが思わず泣いてしまうシーンで、その状態を”自分からはみ出してしまうことがある”と表現していたのが印象的でした。
加賀:その表現は、小説を書いていく中で出てきました。自分もすごく悩んだり、「この自分嫌だな」みたいな気持ちになることはあったんですが、それが言葉にはなってなかったんです。お話を書いてるうちに言葉が浮かんできたので、草野くんに感情移入して、こういう気持ちなんじゃないかなって思ってあげれたということなんですかね。その時も小説を書くというのは不思議だなと思いました。
ーー大人になってからお父さんと喧嘩するシーンでも、草野くんが、お父さんのことを気遣いながら怒ってると感じました。
加賀:草野くんは、もう怒っても仕方ないってわかってるんですよ。でも、家族だからそこは諦めきれないというか。もどかしいですよね。あのシーンは「ああ、悲しいよね」って思いながら書いてましたね。「仕方ないよ、でも絶対にあとで活きるから」って。
ーー全体を通して、「あとで別のことに活きるだろう」と草野くんが思う描写が印象的です。コンビニに置き去りにされたときも、あとで伊勢くんに喋ろうと思うことで前向きになれたり。お父さんが参加してる車のグループのリーダーが、「この父親なのめちゃめちゃ大変じゃの!」って笑ったところは、草野くんがすごく救われた場面ですよね。笑ってもらうことで救われるという気持ちは加賀さん自身の考えでもありますか?
加賀:そうですね。例えば車のグループのリーダーは、奥さんには怒られてますけど、でも草野くんに対して一番親身になってくれているんですよ。ちょっと難しいんですけど、遠巻きに心配したり、かわいそうがったり、こんなお父さんおかしいって言うだけの人より、「お前めちゃめちゃ大変じゃな」って声をかけてくれる、懐のでかい人の方がありがたいんですよね。それが伝わってくれたらなとは思いましたね。
ーーちょっと個人的な話になってしまうんですが、私の父親もわりと不機嫌で場を支配するタイプだったので、草野くんが伊勢くんに「こっちがどんだけ顔色窺って生活してると思うとんな」って言ったときに、グッと刺さって。しゃぶしゃぶを食べるシーンも笑ってしまって。
加賀:ああ、よかった。ほんとに、うちの父親が捕まってパトカーで連れて行かれた夜、みんなでしゃぶしゃぶ食べたんですよ。近所でもめっちゃ盛り上がって。だから、これ分かる人はめっちゃ分かるんじゃないかなって思いながら書きましたね。
ーー”こんなに明るい夜ご飯はいつ以来だろう”っていうのが、身にしみて。私も、明るい夜ご飯あまりなくて、お父さん怒らないかなとか、ずっと父親の顔色伺ってたので。
加賀:めっちゃ怖かったですよね。僕もほんとに大変でした。ずっと機嫌が悪いからビクビクしていて。
だから、この本って読んでくれる人の家庭環境によってものすごく印象が変わるんですよね。芸人さんから連絡きて、「めっちゃよかった」って言ってくれる人、だいたい家庭環境に難があったりするんですよ。読んでいてしんどかった、ってなる人はだいたいそんな経験がないとか。その感覚のずれはあるみたいですね。小説を読んでくれた人から、「しんどかったですね」とか「悲しくなりました」みたいな感想をもらって、悲しませたりしんどい思いさせたくないなと僕は思ってたんですけど、このずれもまた、小説の面白さなのかなと思いました。
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