ライターが選ぶ「2021年コミックBEST10」満島エリオ編 『ゴールデンラズベリー』の圧倒的な絵力
満島エリオが選ぶ「2021年コミックBEST10」
1.『ゴールデンラズベリー』持田あき
2.『矢野くんの普通の日々』田村結衣
3.『ダンダダン』龍幸伸
4.『ルックバック』藤本タツキ
5.『ジーンブライド』高野ひと深
6.『私のジャンルに「神」がいます』真田つづる
7.『ブランクスペース』熊倉献
8.『海が走るエンドロール』たらちねジョン
9.『ダーウィン事変』うめざわしゅん
10.『後ハッピーマニア』安野モヨコ
2021年、まず触れないわけにはいかないのは、7月19日、少年ジャンプ+にて無料で公開され、またたくまに社会現象と化した藤本タツキの『ルックバック』。この作品について、クリエイターに限らずあらゆるジャンルの人たちが自分の経験に重ねてSNS等で言及していたのが非常に印象的だった。その波及の規模は大きく、もはや作品自体の良し悪し、好悪を超えた、一つ上のレイヤーで語られる存在となったように思う。ひとつのマンガ作品が社会に対してここまでの影響力を持てるということを見せつけられ、いちマンガ好きとして爽快さを覚えるとともに、少しそら恐ろしさも感じる出来事となった。
そんな今年、個人的な2021年BEST10として、2021年内に単行本1巻または2巻が刊行されたものから選出させていただいた。その中から3作品をピックアップしてレビューしたい。
■これまでの「2021年コミックBEST10」
島田一志 編 『ルックバック 』という収穫
飯田一史編 1位は読み切りの少女マンガ!
ちゃんめい 編 『フールナイト』が描く衝撃の世界観
関口裕一編 漫画家への感謝の念を抱く作品たち
若林理央編 漫画表現のさらなる可能性を感じた1年
立花もも編 この作品を読んでこなかった自分が恥ずかしい!
白石弓夏編 ヒロインをどれだけ愛せるかがキーポイント
『ゴールデンラズベリー』持田あき
ハイスペックなのに仕事が続かず、転職歴24回の芸能プロダクション社員の北方啓介が出会ったのは、何にも執着がなさそうな21歳の会社員·吉川塁。塁の睨むような目つきの強さにほれ込んだ啓介は彼女をスカウト。プロポーズ同然の啓介のスカウトと熱意に突き動かされ、塁も覚悟を持って芸能界を目指すようになる。
本気で仕事に打ち込んで初めて感じることのできる喜び、悔しさ。熱意がぶつかり合うことで啓介と塁の間に生まれる、他の何かには例えがたい強い結びつき。「これ!」と思ったものには徹底的に食らいつく啓介の変態的なこだわり。日常に潜む「おかしな常識」にNOを突きつける塁の強さ。そんな熱量の高い感情をバシャバシャ浴びることができるのが『ゴールデンラズベリー』だ。
そして、何よりこの作品が思い知らせてくるのは、マンガにおいて「絵の力」がどれほどの威力を発揮するのかということ。啓介が一瞬で目を奪われ、「彼女は本物」と思わせた吉川塁の特別さを、持田あきの筆致、特に強い瞳、うねる黒髪が生み出す圧倒的な絵力によって「理解させられ」ることだろう。
『矢野くんの普通の日々』田村結衣
傷だらけの少年が描かれた書影に、「バイオレンスなストーリーなのでは?」とドキッとさせらるが、ご安心ください。とっても癒される日常ラブコメなのである。
ありえないほど不運&ドジなせいで毎日ケガをし続けている矢野くん。常にハラハラな日々を過ごす矢野くんが心配すぎて目が離せないクラス委員長の吉田さんは、いつしか矢野くんのピュアな可愛さに心を掴まれてしまう。あの手この手でアプローチしてみるものの、日常的にケガの危機にさらされつづけている矢野くんは、安全欲求(とにかく身を守りたい)に関心が偏りすぎていてまったく好意に気づいてくれない! そんな矢野くんと吉田さんのすれ違いの甘酸っぱさに、写実的な絵の上手さが生み出すシュールさが加わり、絶妙な味わいの作品に。表紙に反して平和でほのぼのとした(ちょこちょこ血は出るものの)癒しのラブコメディーだ。