新興宗教を描く小説が増えている? 時代の空気が反映された文芸書週間ベストセラー
11月期ベストセラー【単行本 文芸書ランキング】(12月7日トーハン調べ)
1位『転生したらスライムだった件 19』伏瀬/著
2位『このミステリーがすごい! 2022年版』『このミステリーがすごい!』編集部/編
3位『ママがもうこの世界にいなくても 私の命の日記』遠藤和/著
4位『魔王様、リトライ! 8』神埼黒音/著
5位『李王家の縁談』林真理子/著
6位『チンギス紀 十二 不羈』北方謙三/著
7位『ほっといて下さい 従魔とチートライフ楽しみたい! 4』三園七詩/著
8位『未実装のラスボス達が仲間になりました。3』ながワサビ64/著
9位『神曲』川村元気/著
10位『乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です 9』三嶋与夢/著
12月の週間ランキング、2位にランクインした『このミステリーがすごい! 2022年版』に年末がやってきたことを実感させられる。こちらの1位は、直木賞にノミネートされたことが発表されたばかりの米澤穂信『黒牢城』。2位に、直木賞と山本周五郎賞をW受賞した佐藤究『テスカトリポカ』、3位は『騙す衆生』で山本周五郎を受賞した月村了衛の人気シリーズ『機龍警察 白骨街道』。巻頭には今年もっとも注目された作家として加藤シゲアキのインタビューも掲載されている。こちらのランキングもあわせてチェックして、年末年始の読書計画にそなえたい。
5位は林真理子『李王家の縁談』。もともと、皇室や華族といったやんごとなき存在に興味があったという林が、満を持して書きあげた同作の主人公は、梨本宮伊都子。駐イタリア特命全権公使の父をもち、ローマで生まれた、イタリアの子という意味で「伊都子(いつこ)」名づけられた彼女は、明仁上皇(あきひとじょうこう)の大叔父である、旧皇族・梨本宮守正王(なしもとのみやもりまさおう)と結婚した、実在する女性である。
伊都子は、娘が皇太子妃候補からはずされたのをきっかけに、結婚相手探しに奔走しはじめるのだが、中途半端な宮家に嫁がせるくらいならと彼女が見定めたのが、当時の朝鮮李王朝の王子で、日本に留学中だった李王垠だった。その後、王垠の妹の縁談も伊都子はまとめることになるのだが、とくに当時の皇族・華族にとって、いかに結婚が政治的な手段だったかが、読んでいるとよくわかる。また、彼らがどれほど一般庶民と一線を画した、雲上の存在であったかも。伊都子は自身を古臭い価値観にとらわれない、どちらかというと新しい女だと自認しているし(実際、そうでなければ王垠に嫁がせようなんて思いつかないだろう)、他者への慈愛にも満ちている。だが、やっぱり傲慢であることは否めないし、ラストで本当に新時代を象徴する女性――現上皇后が皇太子妃として登場した際の毒の吐きようは、なかなかのもの(これは史実でもある)。
だが、伊都子に反感をもつかといえばそうは決してならないのが、林の筆力である。彼女は彼女で、自身の信じる道を貫き、潔く生きた。〈皇族華族の内面をこれほど正確に描ききった小説は読んだことがない。傑作である。〉と歴史学者の磯田道史も帯にコメントを寄せているが、現代の価値観や人権意識でははかることのできないものが、皇族の歴史には詰まっているのだということが、伊都子の生き様を通じて読んでいるとひしひしと伝わってくる。2021年は、皇族の結婚が頻繁に取りざたされた年でもあった。『李王家の縁談』を読むと、よりいっそう考えさせられてしまうものがある。