まるで朝ドラ! 老舗料亭を舞台に繰り広げられる年の差夫婦の物語『ながたんと青と』のエネルギー

料亭を立て直すための斬新なアイディアと食べる人のことを心から思うレシピ

 トントンと包丁の音やかき混ぜる音、食材を焼く匂い、鮮やかな色合いまでもが実際に感じられてきそうだ。あぁ…これは夜中の空腹時に読んではいけない(笑)。

 料亭の立て直し、歳の差夫婦の歩み寄りのキーにもなっているのが度々出てくる”レシピ”だろう。特にいち日は、さまざまな境遇にある人やその人の食事の嗜好、その人の生き方に……食べる人のことを心から思っていることが、レシピからも伝わってくる。周のアドバイスもあり、先代の味を守りつつも、これまでにはなかった料理にチャレンジをする。さまざまな食材や調理方法を駆使しながら、ホテルで培った洋食レシピのアレンジを加えることも。政略結婚、料亭の立て直しという大変な状況のなか、いち日がレシピのことを考えるときはなんだか生き生きと、楽しそうである。周もいち日の手料理を食べるときだけは、素直で年相応の愛らしい姿をみせる。

 作中ではところどころに実際のレシピも載せられている。作者のあとがきには、「作中のレシピは実際に作っていただきたくて、昭和中期と現代を少し混ぜるような形で作っていただいている」と書かれている。筆者もさっそく作ってみた。個人的にはいち日が作るまかない、夜食のレシピが好きだ。

4巻に登場した『カブの青唐辛子もみ梅和え』『牛肉の青唐辛子巻き』

 いち日は周のことを「青と」のようだ(青唐辛子のこと、青くさいという意味でつかうことも)と思っていて、周の好物が梅干しであることもちゃんと覚えているのだなと、このレシピからもわかる。筆者は辛いのが苦手なので、再現レシピでは青とでも『万願寺とうがらし』という甘味がある京野菜で代用。こちらは料理初心者でも作りやすいのではないかと思う。ぜひ本作を読みながら試してみてほしい。そして、料亭のこれからといち日と周、歳の差夫婦の行く末を見守っていきたい。

■書誌情報
『ながたんと青と-いちかの料理帖-』1~7巻(KC KISS)
作者:磯谷友紀
出版社:講談社

関連記事