【漫画】判断のつきにくいセクハラ被害の真実とは 『100日後に会社を辞めるOL』の衝撃

ーーなぜセクハラというセンシティブなテーマを漫画化したのですか。

とあるアラ子:2015年に放送された真木よう子さん主演のドラマ『問題のあるレストラン』を見たことがきっかけです。当時にしては珍しいフェミニズムを扱った内容なのですが、不祥事を起こした女性が管理職の前で全裸で土下座をさせられたために裁判で訴えるというエピソードがありました。ドラマとして興味深く、彼女の奮闘を応援しながら見ていたのですが、同時に、こんなあからさまな性被害は滅多になく、もっと微妙で曖昧な被害が多いんだよな、とも思っていました。

 当時、そのドラマは大きな話題になっていましたが、脚本家が男性だったので、女性目線で自分の体験を伝える作品を描きたいと考えたのです。連載はツイッターで1日2ページのペースでアップしました。最初は誰も読んでいなかったのですが、徐々に読者が増えていきました。

ーーTwitterにアップされていた漫画の中では、人がセクハラされていたのを目撃したのをきっかけに自分の過去のセクハラ被害を思い出していますよね。それまでセクハラのことを忘れていたのでしょうか。

とあるアラ子:セクハラが原因で会社を辞めたという事実は記憶していましたが、忘れて生活していました。ただ、バイト先で誰かが触られているとか、セクハラと言えないレベルだとしても、若い女性が男性から親しくされているのを見ると猛烈な怒りが湧いてきて。どうしてそう思うのか、なぜ嫌なんだろうと掘り下げた時に、自分の過去の経験に原因があるのだと、線で繋がった感覚がありました。

ーー連載当時の反響が大きかったと伺いました。

とあるアラ子:自分も同じような経験をしたと共感してくれた女性から、たくさんのコメントが寄せられました。男性からも「気持ち悪いね」「セクハラってこうやって起こっていくのか」といったコメントが届きました。始める前は、「自意識過剰だろう」などといった批判的なコメントの心配しましたが、思った以上に好意的に受け取ってもらえたようです。ただ、「自分もこういった現場を見た」といった声はありませんでしたね。

ーー『100日後に会社を辞めるOL』は商業出版にいたっていないとのことですが。

とあるアラ子:編集さんは常に出版できそうな作品を探しているので、可能性のある作品は連載中に何社からも声がかかるものなのです。しかし、どの段階になっても話がこなかったので、無理なんだろうなと感じていました。実際、2社に書籍化の話を持ち込んだのですが、うまくいきませんでした。当時、知り合いの編集者さんからは「コミックエッセイは実用的な内容でないと売るのが難しい」と聞きました。山登りやマラソンをしてみた、年収xx万円で暮らす方法といったHow Toが求められる時代だったため、私の場合は裁判をして会社を辞めたといった、読者の参考になる内容である必要があると言われたのです。そういった経緯があって早々に諦めてしまいました。

ーー今はコミックエッセイのバリエーションも幅広くなり、フェミニズムへの見方も変わりましたよね。

とあるアラ子:そうなんです。この6年でずいぶんと変化しました。この時代に描いていたなら、フェミニズムをもう少し意識した表現にしていたと思いますが、当時の素直な感情を込めた内容は今でも色褪せずに真っ直ぐ読者に届くと思います。ハラスメントについて声をあげる人が増えてきた今だからこそ、多くの方に届いてほしいです。

一人でも多くの方に読んでほしい

 『100日後に会社を辞めるOL』は被害者と加害者の関係性の変化や、周囲の関わり方も描かれています。筆者は、「何が原因でセクハラが発生したのだろう」と原因を探ったり、「セクハラを相談されたらどう対応するのがベストなのか」と考えながら繰り返し読みました。セクハラを俯瞰して捉えることでさまざまなことが見えてきました。

 例えば、被害者がセクハラ被害を認識しづらい原因のひとつに「美人やおとなしいタイプではない自分にセクハラしてくる人なんていないだろう」という思い込みがあることや、誰もが誰かにとって魅力的であると認識することの重要さ。加害者がセクハラをしている認識があるわけではないこと、セクハラが恋愛感情の延長線上に存在しないことなどです。

 『100日後に会社を辞めるOL』は加害者を罰してスカッとするタイプの作品ではありませんが、だからこそ一過性のエンターテイメントではなく、リアルに悩んでいる人たちに寄り添い、多くの気づきを与えてくれるはず。ぜひ一人でも多くの方に読んでほしいと思いっています。

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