震災以降の日本を描いた『ジョジョリオン』 “呪いの時代”に荒木飛呂彦が辿り着いた結末を考察

 また、強く感じるのがスタンドという概念の変化だ。持ち主の精神が具現化した守護霊のような存在として描かれてきたスタンドは、シリーズが進むにつれて、持ち主の人間が滅んでも暴走し続ける「制御できない巨大な力」という側面が強まっている。

 透龍のスタンド「ワンダー・オブ・U」は、本体が死んでも消えない「厄災の理」だと語られるが『ジョジョ』の悪役が非人間的な存在に変わりつつあるのは興味深い。厄災は原発事故で起きたメルトダウンや、コロナ禍におけるパンデミックのようなもので、スタンドもまた「呪い」に近い存在へと変わりつつあると言える。

 敵役として登場する岩人間にも同じことが言える。人や動物といった「炭素系の生命」に対する「滑り止め」「もう一つの道」と語られる「ケイ素系の生命」の岩人間は、第2部に登場した「柱の男」のリメイクだが、より非人間的で不気味な存在となっている。最終巻に登場するガードレールに擬態して生物を捕食する岩生物のラヂオ・ガガはその最たる存在だろう。

 「呪い」や「災厄」という言葉が、年々説得力を増しているように感じるのは、SNSを通して人の悪意が可視化されやすくなっていることも大きいだろう。ネット上で起こる様々なトラブルを見ていると「悪い人間を倒せば解決する」という考え方自体が、厄災の元凶のように思えてくる。

 過去の『ジョジョ』と比べて悪役の個性が弱く、物語にカタルシスがないと批判されることも多い本作だが、これは「呪い」というテーマを選んだ故の必然だろう。人間讃歌をテーマに掲げてきた荒木の関心が「鉱物」や「呪い」といった非人間的なものに移りつつあることがよくわかる作品だった。

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