冴羽獠はなぜ最高なのか? 『今日からCITY HUNTER』が受け止めるファンの愛情

ファンに支持されるスピンオフ『今日からCITY HUNTER』

 そんな『エンジェル・ハート』が17年という長い連載を終えた2017年、月刊コミックゼノンでは錦ソクラ先生による公式スピンオフの『今日からCITY HUNTER』が始まりました。40歳の『シティーハンター』熱狂的ファンの女性が『シティーハンター』の世界に転生してしまう異世界転生ものです。この作品は良質なだけでなく、『エンジェル・ハート』への複雑な感情を少しずつ軽くしてくれました。

 主人公の沙織は『シティーハンター』の歴代ゲストと『シティーハンター』ファンを足して割ったような性格で親近感を抱きやすく、またストーリーも基本的には原作のターニングポイントとなる物語をベースに独自展開も入れ込んでくるスタイル。沙織の転生によって多少の物語の変更はあれど、キャラクターの設定に変更が発生しないため、コアなファンでも受け入れやすい作品になっています。

 コミック第1巻は「似せる努力が見える」レベルの画力だったため、違和感を覚えたことは否定できません。しかし、連載が続く中で画力が上がり、今では北条先生の絵にそっくりになりました。それだけでなく、物語の流れやコマ割り、リズムもオリジナルそっくりになっているため、スピンオフというより『シティーハンター』の続編を読んでいるような感覚になります。

 『エンジェル・ハート』は続編→パラレルワールド→セルフリメイクと読者に向けたコンセプトが二転三転したため、ファンを混乱させた面がありました。しかし、『今日からCITY HUNTER』は転生もののスピンオフという位置付けがハッキリしているので、手に取ったあとも困惑することは特にありません。単なる転生ものだと思って読み始めたら、実は原作を伏線とした伏線回収編のようになっていることに気づき、「思っていたより深くて面白い」と非常に満足できました。

 『シティーハンター』が読みたくてジャンプやコミックの発売を心待ちにしていた頃の気持ちが蘇ってくるので、『今日からCITY HUNTER』の錦ソクラ先生には感謝しかありません。なんというか、『シティーハンター』愛をちゃんと受け止めてくれる内容であることと同時に、「原作だけが正解ではない」と、『エンジェル・ハート』とも向き合う勇気を与えてくれたような気がしています。

 筆者は冴羽獠と『シティーハンター』が大好きです。しかし、熱烈に好きだからこそ、いろんな局面で悩んできました。そして『新宿プライベート・アイズ』の公開以降、再び『シティーハンター』というコンテンツが注目され、盛り上がりを見せる中で、やっと冴羽獠という絶対エースへの想いと向き合い始めているような気がします。

 錦ソクラ先生の『今日からCITY HUNTER』は1巻と2巻のみAmazonで期間限定無料お試し版を読むことが可能です。未読の方は手に取ってみてはいかがでしょうか。

■書籍情報
『今日からシティーハンター(9)』
著者:錦ソクラ、北条司
定価:660円(税込)
出版社:コアミックス

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