【怪談】婚活アプリで出会った相手の正体にぞわり……『レイワ怪談 青月の章』の現代的なコワさ

 そんな王道の展開に加えて、本作では個人の思い出のあやふやなところも突いてくる。昨今の私たちは記憶しておくことに、あまり重点を置かなくなってきてはいないだろうか。かつては電話番号さえも自分の頭で覚えていたものだが、それも最近では全てスマホが担ってくれているからだ。

 自分の目で見るよりもスマホのカメラで撮影することに一生懸命になってしまう。記録することで記憶していると勘違いしているような感覚がある。そんな記憶を留めておくという筋肉が衰えたところに、「その記憶は本当に現実か?」と問われると、ゾワゾワとしてくるものがあるのだ。あなたが、あの公園で遊んでいたのは本当にこの世の人だろうか。そんなぼんやりとした思い出がすぐに怪談と溶け合っていくのも、令和ならではといえるかもしれない。

 「怪談って怖いだけじゃないんだ。中には、悲しくて切ない話もある。怖いのに、なぜか優しい気持ちになれる話だってあるんだ」とは、本作のはじめに書かれた言葉。便利な機械に頼り切りにならないこと、先人の言葉には耳を傾けること、ときには直感を信じること……怪談話にはリアルを大事に生きるヒントが隠れている。まだまだ混乱を極める2021年。新しい季節をしっかり自分たちの足で進んでいくためにも、怪談話でピリッと気を引き締めて、流れていってしまいそうになる“今”を、大切に生きていこうではないか。

■書籍情報
『レイワ怪談 青月の章』
ありがとう・ぁみ(原作)篠月しのぶ(絵)
発売日:2021年8月5日
定価:1,100 円
280ページ
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