『女の園の星』に散りばめられた“謎キャラ”は何? ディティールに宿る、和山やまの遊び心

 先生から預かっている犬の顔に油性ペンで眉毛を描いたり、朝早くから好みの店員さんがいるコンビニで中華まんを大量に購入したり、自習の時間にラジオごっこやシャボン玉をしたりーー。

 数多くの著名人がおもしろいと声を上げている漫画『女の園の星』の魅力として、現実の女子校でありそうな事象を丁寧に描くことで生まれる、リアルでシュールな笑いが挙げられるだろう。そんな本作の作者である和山やま氏は、インタビューで次のように話している。

何回も読み返していると、キャラクターの後ろに何かいたりとか、新たな発見がある作品にしたくて。読者もそこを楽しみにしてくれているので、私も手を抜かずに描いていこうと思います。(参考:『注目の漫画家・和山やま 独特な世界観が生まれるアイデアの源は?』

 多くの人を魅了する作品を生み続ける和山氏が、こだわりをもって描いているものは何なのか。本稿では『女の園の星』のディテールに注目して作品を読み解いていきたい。

緻密な設定を匂わせる職員室

 2巻の「8時間目(第8話)」で登場し、「国民の近所の兄ちゃん」の呼び名で知られる俳優と結婚した緑川先生。同エピソードにて、職員室では星先生の後方に緑川先生の席があることが見て取れる。

 緑川先生の名前がはじめて明かされたのは「8時間目」であるが、本作を読み返してみると、学級日誌の備考欄で繰り広げられる絵しりとりが描かれた「1時間目」において、星先生の後ろに髪を縛った女性が座っている描写を確認することができる。

 また「8時間目」で緑川先生の近くにはサボテンような植物が生えている植木鉢が飾ってあるのだが、「1時間目」をはじめ星先生の観察日記をつける鳥井さんにスポットライトが当たった「5時間目」などのエピソードでも植木鉢が存在しているのだ。

 もしかしたら本作の連載が始まる前から、先生の席順やオブジェクトの配置など、職員室に関する設定が緻密に練られていたのかもしれない。ちなみに、中学時代にクラスで飼っていたクワガタ「ポチ」を肩に乗せた星先生の写真が登場する「6時間目」において、ポチの下に敷いてあったハンカチは女性教師から借りたという裏設定が存在していることを和山氏はインタビュー(参考:『「星先生は、生徒に対しての言葉遣いもていねいで、理想を詰め込んだ感じです」 和山やまが語る『女の園の星』の“関係と恋愛”』)で語っている。

小林先生や星先生を象徴するマスコット

 星先生たちが仕事やおしゃべりをする職員室を観察すると、小林先生の机にゾウの人形を確認することができる。この人形は2年生の松岡さんが描いた漫画『エターナル・カオル』を星先生たちが読む「3時間目」や、小林先生がバレー部に所属する生徒の保護者からペタリスト(もといタペストリー)を作ってほしいとお願いされた「9時間目」でも登場している。

 小林先生が生徒から「ポロシャツアンバサダー」と呼ばれていることが判明した「4時間目」では、星先生の着ているスタンドカラーのシャツについて雑談したり、家がスタンドカラー工場であることを想像する小林先生に対し、ゾウの人形が「シゴトシテ・・・・」と心のなかでつぶやく様子も見られた。

 小林先生のゾウの人形と同様に、星先生もクマのイラストが描かれたマグカップをつかう姿が多く描かれている。小林先生の想像の中では、クマのぬいぐるみやクマに似たイラストが大量に描かれたパジャマを着る星先生も登場した。作中に頻出するゾウやクマは小林先生や星先生を象徴するマスコット的存在なのかもしれない。

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