ゴールデンボンバー・歌広場淳、『刃牙』をBLとして楽しむ乙女に共鳴 「一つの作品を二度楽しむ豊かな体験」

 社会学者・BL(ボーイズラブ)研究家の金田淳子氏による『『グラップラー刃牙』はBLではないかと1日30時間300日考えた乙女の記録ッッ』(河出書房新社)を原案としたドラマ、『グラップラー刃牙BLではないかと考え続けた乙女の記録ッッ』が8月20日よる11時からWOWOWで放送・配信スタート、20日放送の第一話は無料放送される。

 リアルサウンドではこれに先立ち、金田淳子氏を敬愛しているゴールデンボンバー・歌広場淳へのインタビューを実施。前編(本稿)では、本書の面白さに迫り、後編ゴールデンボンバー・歌広場淳も虜に 『刃牙はBL』“人と違う”松本穂香の魅力ではドラマならではの面白さを掘り下げていく。(編集部)

「思っていたことを言語化してツッコんでくださった!」

ーー歌広場さんは「『グラップラー刃牙』はBLではないかと1日30時間300日考えた乙女の記録ッッ」が刊行された際に、Twitterで「最高だぁ〜〜ッッ!」と称賛していました。金田淳子さんに、いつから注目していたのでしょう?

歌広場:2015年刊行の『オトコのカラダはキモチいい』(著:二村ヒトシ・金田淳子・岡田育/KADOKAWA/メディアファクトリー)を読んで衝撃を受け、同時にラジオ番組『ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル』『アフター6ジャンクション』(TBSラジオ)に出演されて、BLについて解説された回も楽しく聞いていました。当時、ゴールデンボンバーで成果が出て、ただただ夢中で駆け抜ける時期からひと段落したころで、僕も好きなことをやれる時間をいただけるようになったところだったんですよ。そこで、ゲームや舞台など、自分が好きなものについてきちんと勉強しよう、というタイミングだったので、カネジュン先生のお話はとても勉強になりましたね。SNSもフォローさせていただいて、そこでこの「刃牙BL本」も早い段階で知ることができました。

ーー金田さんのどんな部分に共感するでしょうか。

歌広場淳:僕も、おそらくカネジュン先生も、「人と違う趣味を突き詰めていてすごいね(笑)」「夢中になっていて楽しそう(笑)」と、褒められるというより若干いじられ気味に言われることが多いと思います。つまり、「世間からズレた人」と捉えられていると思うのですが、僕は、それは違うと考えていて。人を「ボケ」と「ツッコミ」に分類してしまうと、ボケがヤバい人で、おかしなところを正そうとするツッコミがまともな人ですよね。そして、僕もカネジュン先生もツッコミ側の人間だと思うんです。好きなものに対しても、ツッコミたくて仕方がない。だから、“普通”とは違った角度から物事を捉えているように見えると思うのですが、自分の意識としては「まとも」なことをしているんですよ。

ーーなるほど。金田さんの本も確かに「気づき&ツッコミ」的な視点が鋭く、対象となるものを面白く伝えていますね。ちなみに、歌広場さんは漫画の『刃牙』シリーズを読んで、どんな感想を持ちましたか?

歌広場:「リアルシャドー」(※想像上の対戦相手が周囲の人に見えるレベルに到達した、範馬刃牙による“シャドーボクシング”の究極進化形)とか、「耳を捻って脳内麻薬(エンドルフィン)を出す」とか、「紐切り」(空手家・鎬昂昇の必殺技。指を人体に突き刺し、血管や神経を切断するという荒技で、“首に視神経はない”というツッコミが殺到した)とか、ネットミームになりやすいネタも多いのですが、それは作者である板垣恵介先生の手のひらの上で踊っているという感覚というか、ツッコんだら負けというところもあって。ただ、キャラクターも一生懸命だし、板垣先生も本気で描いているという熱量が伝わってくるから、打算でぶっ飛んだことを描いているわけではない、ということはすぐわかって。だから目が離せないし、結局ツッコミ続けてしまう作品ですね。


ーーイケメン好きで知られる歌広場さんですが、本シリーズで好きなキャラクターはいますか?

歌広場:正統派イケメンキャラクターだと、天内悠が好きですね! 米大統領のボディガードで、範馬刃牙の父にして“地上最強の生物”範馬勇次郎が興味を持って日本に連れてきた、という高待遇で登場したキャラクターでしたが、実際はスーパーかませ犬で(笑)。顔がカッコいいから、絶対に強いと思ったんですけどね。あとは、まったく違うベクトルのキャラクターですが、柴千春もけっこう好きです。見た目より言っていることがカッコよくて、「度胸と根性なんてカンタンなもんよ。度胸と根性出しゃいいんだからよ」なんて名言だと思いますし、暴走族の名前が「機動爆弾巌駄無」(がんだむ)なところもいいですよね。カネジュン先生は、あまり関心を持たれていないようですが(笑)。

ーー『刃牙』シリーズは物語にもキャラクターにも、キャッチーな部分が多い作品ですが、これを「BL」という目線で読み解く、という試みについてはどう思われましたか。

歌広場:本質的には「カープ女子」や「プロレス女子」など、いまや一般化している言葉に通じるものだと思います。要するに、とても変わった視点の本ではなく、「男が好きなもの」という一般的なイメージのある作品が、ある女性の視点からはこう見えている、ということを丁寧に書いたものだと捉えていて。野球もプロレスも、昔は女性が見ていたら変わり者と思われていたでしょうし、今回の本もいまは好奇の目で見られているかもしれませんが、別に自然じゃないかと。BLというテーマについても、『刃牙』は実際に格闘シーンを性描写のように描くことが多いので、「ああ、思っていたことを言語化してツッコんでくださった!」という納得感というか、うれしい感覚がありました。


ーー確かに「BL」という観点でなくても、『刃牙』シリーズはネタ漫画的に楽しまれている部分もあり、そのユニークさ、“ツッコミどころ”を言語化した本と捉えることができますね。

歌広場:そうなんですよ。僕は何事にも「表と裏」があると思っていて、『刃牙』の「表の楽しみ方」が、少年漫画の王道的なバトル作品として読むことだとしたら、「裏の楽しみ方」のひとつが、カネジュン先生が提唱するBL的な読み方なのだろうと。僕もカネジュン先生も、この「裏の楽しみ方」が好きだと思うんですが、伝えておきたいのは、最初から粗探しのように、変な読み方をしているのではない、ということです。「裏」というと、うがった見方をして嫌だな、と顔をしかめる方もいらっしゃるかもしれませんが、ちゃんと「表」から楽しんだ上で、別の味わい方を見出していて。

 例えば、「『エヴァンゲリオン』ってどんな話?」と人に聞いたら、答えは千差万別だと思うんです。「碇シンジがいじめられていてかわいそうな話」と捉えている人もいれば、僕のように「渚カヲルくんが出てくるまでの前振りが長い」と感じている人もいる(笑)。このように同じ作品を楽しんでいても見ているところは違う、ということは往々にしてあるものですし、「刃牙BL」もぜひ偏見を持たずに楽しんでいただきたいですね。

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