日向坂46 小坂菜緒『君は誰?』が名作と言われる理由 写真集から伝わる誠実な人柄

 「君は誰?」。これは、今年6月29日に集英社から発売された日向坂46・小坂菜緒の1st写真集のタイトルだ。寄りで撮られた小坂菜緒の表情に添えられたこのタイトルを見たとき、率直にドキドキとした。日向坂46がデビューして以降、4作連続で表題曲のセンターを務めた小坂菜緒は間違いなくグループの顔だ。

 それほどしっかりとした肩書きがあるにもかかわらず、「君は誰?」の文言と一緒に小坂菜緒の顔を見たとき、ふと匿名的な存在であるように感じられた。これが日向坂46・小坂菜緒の1st写真集だと知ったうえで見ているのに、だ。

 不思議な感覚だった。そこに写っているのは、一体誰なんだろう? 小坂菜緒とは、一体どんな女の子なんだろう? メディアを介して得た小坂菜緒の情報や、自分が勝手に抱いているイメージをあえてまっさらにして、「君は誰?」と問いかけながら読み解きたくなってしまった。いや、むしろそう見るのが本作の醍醐味なのかもしれないとすら思った。

日向坂46が存在しない世界線の小坂菜緒

 本作は、前半「the last scool days」、後半「after graduation」の二部構成となっている。どちらも夏景色のなか撮られているにもかかわらず、前半と後半で印象に若干違いがあるのが本作の深みだと感じる。

 まず前半「the last scool days」は、半袖のセーラー服カットから始まる。授業中、隣を見ると小坂菜緒がいる世界。鼻と口の間にピンクのシャープペンシルを挟んだり、カーテンに隠れて内緒話をしようとしたり。何気ない仕草から妄想が広がる。もし小坂菜緒とクラスメイトだったら、こんなふうにちょっぴりイタズラな笑顔を見せて話しかけてくれたんだろうか。全て妄想に過ぎないとはいえ、無意識のうちに小坂菜緒の声が頭に響く。それほど何気ない学校生活の風景に小坂菜緒が馴染んでいるのだ。

 日向坂46の活動のため、毎日学校で授業を受け、放課後は部活動に励むといった学生生活を送ることのできなかった小坂菜緒だが、そこに写っているのは、毎日学校で授業を受け、放課後は部活動に励んでいる普通の女子高生の姿にも見える。そこに写っているのは、日向坂46に加入したのとは別の世界線で生きている小坂菜緒なのかもしれない。そう考えながら見ていくうちに、小坂菜緒という存在自体がだんだんあやふやになっていく。特にこの前半部分は、写真には写っていない「朝起きてから学校に行くまで」と「学校から帰宅して夜眠るまで」の一部始終までもが想像できてしまうほど、小坂菜緒の存在に奥行きがあって、ただの女子高生として過ごしている様子がリアルに感じられた。

読者に委ねられた例えようのない関係性

 そして後半「after graduation」に続く。卒業式の翌朝だろうか。布団をかぶり、寝ぼけまなこな小坂菜緒。高校を卒業したからといってすぐ大人になれるわけではないけれど、今日は少し大人な気分で遊びに行こう。遊園地やプール、フルーツガーデン。しかし遊び始めると、早速高校生気分に逆戻り。そんなふうに、子どもと大人の狭間を描いているのが印象的だ。

 前半と後半には、共通して「切なさ」や「儚さ」が感じられる。例えば、後半の最後に収録されている花火のシーン。笑顔から次第に真顔になっていく小坂菜緒と小さくなっていく線香花火。きっとこの火が消えたら、二人はもう、今まで通り遊んだり笑いあったりすることはないのだろう。頭のなかで自然とストーリーが構築される。

 全編を通して想像する小坂菜緒との関係性には、互いに正式に思い合っているというより、高校卒業前に少し仲良くなった名残で遊び続けているがゆえの勢いともどかしさが感じられる。来年、再来年もずっと遊んでいるかと言われれば約束はできない。どちらかが誘えばまた会えるはずなのに、時間が経つにつれ、どちらが誘うこともなく距離が開いていくような取り止めのない繋がり。でも、そんな繋がりだからこそ楽しめる空気感もあるはずだ。近いようで遠い、知っているようで知らない小坂菜緒という存在。そこにいるのは、本当に日向坂46の小坂菜緒かもしれないし、そうではないかもしれない。「君は誰?」。見る人の自由な解釈によって、小坂菜緒はいろんな女の子になれる。友達や恋人など、既存の言葉では括れない関係性。アイドルのようでアイドルでない小坂菜緒を、どう捉えるかは全て読者に委ねられているようだ。

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