【レシピ実践】『鮭とごはんの組み立て方』に学ぶ鮭料理の奥深さ いつもの鮭が格別な味わいとなる一冊
おにぎりはもちろん、ムニエル、フライ、汁物の具にと、魚類の中ではトップクラスに日本の食卓で人気の鮭。そんな鮭を、頭と舌でとことん味わい尽くせる鮭の本が出た。『鮭とごはんの組み立て方』(佐藤友美子/誠文堂新光社)だ。
鮭好きなら心躍ること間違いなし!の表紙とタイトルが示す通り、築地場外市場で鮭専門店「昭和食品」を営む佐藤友美子さんが鮭の生い立ちから種類、鮭に合う米の選び方までを一挙解説。さらにはおにぎり、和洋中の料理など120ものレシピを提案する、いわば鮭の大図鑑だ。おいしく食べるその前に、プロから鮭のイロハが学べるなんて、いつもの鮭が格別な味わいになる予感しかない。
食べる前に読む、ドラマティックな鮭の世界
鮭は旅する魚で有名だ。川で生まれた鮭はオホーツク海、ベーリング海、アラスカ湾を巡ってまたベーリング海に戻り、4年目の秋に生まれ故郷の母なる川に帰る。人間の旅だったらとんでもないマイル数がたまりそうなほど移動に終始する一生を送る。
その「母川回帰」のメカニズムの全貌はまだ明らかになっていない。
母川の匂い(アミノ酸)の記憶によることは定説となっています。ですが、卵の段階で別の養魚場へ移植されたり、人工孵化された鮭の稚魚が別の養魚場へ送られて放流されたりするケースも多々あるようです。その場合、生まれた川よりも、育った川へ帰ることが多いようで、体内の太陽コンパス説、磁気コンパス説、海流説など、さまざまな説にも説得力があります。
私たちも大層酔っ払っていても無事に家へ帰りつくと「帰省本能があるんだねえ」と、あきれられたりしますが、鮭の場合は4年後の初めての帰省にもかかわらずちゃんと帰還するのですから、大したものだとつくづく感心します。(『鮭とごはんの組み立て方』より)
確かに私も、どんなに酔っ払っても目が覚めたらちゃんと家に着いている。もしかしたらヒトの体にも鮭と同じシステムが組み込まれていたりして?などと想像したら、スケールこそ違えど、鮭に親近感が湧いてきた。
前半70ページにわたって鮭を徹底解剖する第一章「鮭の基本」には、他にも鮭の切り方、保存方法、鮭にマッチする米の選び方と早見表、栄養と効能などが詳しく記載されている。後半の第6章「鮭の産地・文化」では鮭と関わる人々と土地土地の鮭文化に触れられる。知れば知るほど、いつも切り身で買って食べる鮭が一尾の魚の姿となり、脳内で愛おしいほどたくましく泳ぎ出す。食べ物である前に生き物である鮭の姿が、浮き彫りになる。
鮭とごはんの2次元的な組み合わせに、具材をプラスし3次元的に組み立てる
鮭を学んだら、次は食べる番だ。シンプルな鮭おにぎりは、ただそれだけでおいしいもの。しかし主題である「鮭とごはんの組み立て」は、鮭とごはんの間にさらに具材をプラスし、3次元的に「組み立てる」ことが狙いだ。ここには、おおよそ30年もの間、鮭と向き合ってきたプロならではのオリジナリティが炸裂し、今すぐ作りたくなるレシピがひしめいている。第2章「鮭のおにぎり」と第4章「鮭とごはんの世界の料理」から、5品”組み立て”てみたので紹介しよう。
チーズのみそ漬けと紅鮭のおにぎり/紅鮭とブロッコリーのサラダおにぎり
「チーズのみそ漬けと紅鮭のおにぎり」は、プロセスチーズをラップで味噌に漬けたものと甘口の紅鮭を組み立てたもの。簡単なのに、濃厚かつ上品な味。酒のつまみにもきっといい。
「紅鮭とブロッコリーのサラダおにぎり」は、緑とサーモンピンクのコントラストが鮮やか。レモンの酸味が効いたブロッコリーが、鮭とごはんの架け橋となる。オリーブオイルをまとった米粒も、一粒一粒がつるんと輝き、香り高きおいしさに。今までにありそうでなかった、新感覚のサラダおにぎりだ。
桜花と時鮭のお花見おにぎり/新物づくし とうもろこしの炊き込みと新時鮭のおにぎり
旬の時鮭と桜花の塩漬けで「桜花と時鮭のお花見おにぎり」。鼻をくすぐる桜花の優雅な香りに、思わず桜餅を食べているような錯覚に陥った。季節を問わず桜味を愛する方に激しくオススメしたい、華やかなおにぎりだ。
「とうもろこしの炊き込みと新時鮭のおにぎり」は、旬の盛りの具材を組み立てたもの。こんなおにぎりをカバンにひょいと忍ばせ、どこかの海辺までフラっと行って波音をBGMにパクッとやれたらどんなに素敵だろう!と妄想がふくらむ。冷房の効いた部屋でいただくのも、もちろんおいしい。