“ループもの”最旬漫画『サマータイムレンダ』が熱い 文芸評論家も唸る“頭脳戦”とは?
最初、ループ以前の時間の記憶を持っているのは慎平だけだった。途中からウシオも記憶を持ったままループするようになるが、そのためには慎平が死ぬまで生きていなければならない。けして万能ではないのだ。
とはいえ紆余曲折を経て、仲間にもループを信じてもらえるようになり、前の時間の体験を前提とした戦略を練れるようになる。このあたりはトライアル&エラーの結果、プレイヤーのキャラクターが死にまくる“死にゲー”を想起させる。単行本の「あとがき」を見ると、作者はかなりのゲーム好きのようなので、意識しているのかもしれない。
ところが影たちの母が、慎平のループをいち早く察知。慎平の能力に便乗するような形で自らをループさせる。したがって慎平側も影側も、互いに相手がループ前の状況を承知していることを前提として動かざるを得ないのだ。この頭脳戦が熱い!
しかし最大のループのルールは、慎平がループするたびに、戻る時間が短くなることだ。つまり回数制限がある。巨大な力に制限をかけることで、強いサスペンスが生まれているのだ。しかもストーリーは、常に読者の予想を上回り、先を読ませない。SF・ホラー・伝奇・ミステリー・アクション……。多数の要素をぶち込み、複雑きわまりない構成を破綻させることなく、誰もが納得できるラストまで突っ走る。とにかく凄い作品である。
なお私は、今回の原稿を書くために再読し、物語にちりばめられた布石と伏線の多さに、あらためて感心した。再読というループだからこそ味わえた楽しみだ。その楽しみのために、今後も本書を何度もループすることだろう。なぜなら再読に、回数制限はないのだから。
■細谷正充
1963年、埼玉県生まれ。文芸評論家。歴史時代小説、ミステリーなどのエンターテインメント作品を中心に、書評、解説を数多く執筆している。アンソロジーの編者としての著書も多い。主な編著書に『歴史・時代小説の快楽 読まなきゃ死ねない全100作ガイド』『井伊の赤備え 徳川四天王筆頭史譚』『名刀伝』『名刀伝(二)』『名城伝』などがある。
■書誌情報
『サマータイムレンダ』1〜13巻完結(ジャンプコミックス)
著者:田中靖規
出版社:集英社