田島昭宇が描き出した“光と影”の世界 画業35周年記念作品集『Baby Baby』で読み解く作家性

【図1】「Baby Baby」#1より (C)田島昭宇/小学館クリエイティブ

 たとえば、【図1】をご覧になってほしい。従来の漫画の段組みを無視した変則的なコマ割りも見逃せないが、それ以上に目を引くのは、やはり田島の絵ならではの「白と黒の美しさ」ではないだろうか。

 むろん、この種のコントラストの強いスタイリッシュな画風の先駆者として、上條淳士(『To-y』、『SEX』)の名を忘れてはならないだろうし、実際、田島自身、上條の絵から多大な影響を受けたことを公言している。また、(これは先日、ご本人から聞いた話なので間違いないが)「黒という色が持つ美しさ」については、高橋葉介や天野喜孝の絵を見て学んだことでもあるらしい(注・田島は一時期、高橋のアシスタントを務めていたこともある)。

 だが、それでも、ある時期(90年代半ば?)以降の田島の絵に見られる劇的な白と黒のキアロスクーロ(明暗対比)は、もはや彼の「オリジナル」といっていいのではないだろうか。あたかもフラッシュを焚いた瞬間のような強烈な光と影の表現は、コマの中に描かれた世界をよりドラマチックに演出するだけでなく、彼の漫画の核(コア)にある「生と死」の両義性をも見事に象徴している。

 初期ルネサンスの“万能の人”――レオン・バッティスタ・アルベルティは、『絵画論』の中でこんなことを書いている。

 私は世の識者たちが、あらゆる最大の努力と技術とは黒と白との正しい使用法であるということを承認するよう要望する。この二つの色をいかに使用するかを知ることに、すべての注意深さと熱心さとを集中するのがよい。
〜『絵画論』《改訂新版》レオン・バッティスタ・アルベルティ/三輪福松・訳(中央公論美術出版)より〜

 また、アルベルティは同じ本の中で、「古代のもっとも有名な画家ゼウクシスは、光と影の力を知っていたために他の画家達のなかでもほとんど第一人者であった」とも述べており、これは、西洋の絵画だけでなく、高度に進化した現代の日本の漫画の絵についてもいえることだろう。

 いずれにせよ、今回、『Baby Baby』に収録された6つの作品――なかでも前述の天使をモチーフにした2作で見られるキアロスクーロは、ため息が出るくらい美しい。機会があればぜひ一度本書を開いてみて、「光と影の力」を知り尽くした田島昭宇にしか表現することのできない、“白と黒の快楽”に酔いしれていただきたいものである。

■島田一志……1969年生まれ。ライター、編集者。『九龍』元編集長。近年では小学館の『漫画家本』シリーズを企画。著書・共著に『ワルの漫画術』『漫画家、映画を語る。』『マンガの現在地!』などがある。https://twitter.com/kazzshi69

■書誌情報
田島昭宇画業35周年作品集『Baby Baby』
著者:田島昭宇
出版社:小学館

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