『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』暁佳奈の新作がランクイン 週間ライトノベルランキング
けれども、雛菊は壊れていた。前とはどこかが違っていた。単語を区切ったような話し方をする雛菊に何があったのかが、『春夏秋冬代行者 春の舞』の上下巻を通して明らかにされていく。一方で、夏の代行者を務めている葉桜瑠璃と、姉で従者の葉桜あやめが暮らす夏離宮を雛菊たちが訪れたり、秋離宮が襲撃されて、かつての雛菊のように秋の代行者の祝月撫子がさらわれてしまう事件が起こったりして、世界が決して平穏ではない様が見えてくる。
寒い冬なんて存在しなければ良いと根絶を狙う勢力や、季節の代行者をもっと活用しようと訴える勢力など、様々な思想信条を持った過激派たちが跋扈して謀略を巡らせ、銃器を振るってテロを起こす。スオウが描く麗しいキャラクターたちや美しい背景に、耽美なファンタジーかと思って手に取ると、意外やハードなサスペンスが繰り広げられていて、驚くかもしれない。春夏秋冬、それぞれの代行者に一種の異能力が備わっていて、バトルシーンで発揮されるアクション要素もある。
あと、描写にどことなくコミカルなニュアンスも漂っていて、良い意味で俗っぽい。雛菊の到着を知った役場から、職員が「自家用車でドリフトをきめて駅に迎えに来た」り、群衆の好奇に晒された雛菊が、部屋の隅で膝を抱き丸くなっていた様子が、「さながらその姿はダンゴムシのようだ」ったりと、ふっと笑える描写が出てきて、それぞれに分厚い上下巻をするすると読んでいける。
一方で、雛菊たちが出会った少女が、冬の間に凍った母親の墓から雪を除こうとする描写、夏の代行者の瑠璃が、姉の結婚にふて腐れる描写など、家族の間に生まれる絆を感じさせる切ないエピソードも挟まれて、生きていく上で大切な存在を思わされる。
ラブロマンスにも抜かりはない。冬の代行者、寒椿狼星は最愛の雛菊が目の前で誘拐されてしまったことを嘆き、苦しみ続けるクールな青年として描かれる。従者の寒月凍蝶も、弟子のさくらが雛菊を奪われた怒りと悲しみから、まだ10歳に満たない身で旅に出て雛菊を探して回ったことに、自責の念を抱いている。そんなイケメン2人は、またしても危機に陥った雛菊たちを助けられるのか。今度こそ狼星は雛菊をしっかりとつなぎ止められるのか。ロマンティックな要素を味わえる作品だ。
ランキングに戻ると、10位に浅葉なつ『神様の御用人10』(メディアワークス文庫)が入った。亡き祖父がかつて務めていた神様の御用聞きに任命されたフリーターの良彦が、パートナーになってくれていた黄金という神様を助け、日本を大建て替え、つまりはいったんの滅亡に陥れようとしている荒脛巾神(あらはばきのかみ)を止めようとするエピソードの完結編。日本は救われるのか。良彦はフリーターから脱することができるのか。すべては物語の中に。
近刊では、4月23日発売予定の大森藤ノ『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか17』(GA文庫)が何かすごそう。サイトにある紹介が
「ひれ伏しなさい」 これは少年が堕ち、美神が騙る、
──【眷族の偽典(ファミリア・ミィス)】──
とだけになっている。ベルくんにいったい何が起こるのか? ドキドキして発売を待ちたい。
■タニグチリウイチ
愛知県生まれ、書評家・ライター。ライトノベルを中心に『SFマガジン』『ミステリマガジン』で書評を執筆、本の雑誌社『おすすめ文庫王国』でもライトノベルのベスト10を紹介。文庫解説では越谷オサム『いとみち』3部作をすべて担当。小学館の『漫画家本』シリーズに細野不二彦、一ノ関圭、小山ゆうらの作品評を執筆。2019年3月まで勤務していた新聞社ではアニメやゲームの記事を良く手がけ、退職後もアニメや映画の監督インタビュー、エンタメ系イベントのリポートなどを各所に執筆。