『SLAM DUNK』桜木と流川の「特異な関係」とは? 読者を惹きつけた理由を考察

※本稿には、『SLAM DUNK』(井上雄彦)の内容について触れている箇所がございます。原作を未読の方はご注意ください(筆者)

湘北高校バスケ部のある種の「枷(かせ)」

 先ごろ(1月7日)、東映アニメーションによる「映画化決定」のニュースが流れ(『SLAM DUNK』映画化で「最後の1分間」は描かれるのか?)、ふたたび注目を集めているバスケットボール漫画の金字塔、『SLAM DUNK』(井上雄彦)。

 そこで本稿では、同作の主人公・桜木花道と、“もうひとりの主人公”ともいうべき流川楓の「特異な関係」について考察してみたいと思う。

 というのは、従来のスポーツ漫画では、このふたりのような奇妙な関係が持続したまま――つまり、主人公(桜木)と準主人公(流川)の心が通じ合っているのかいないのかがわからないまま、物語を最後まで引っ張ることは稀(まれ)であり、その「特異」さこそが、この『SLAM DUNK』という作品をただのスポ根漫画に終わらせず、より味わい深いドラマにしたのは間違いないだろう。

 では、桜木・流川の「特異な関係」とは、具体的にはどういうことか。『SLAM DUNK』を既読の方はもちろんご存じだろうが、桜木は、秘かに想いを寄せている赤木晴子の憧れの存在である流川のことを常にライバル視しており、流川は流川で、何かと自分に突っかかってくる桜木のことをあまりよく思ってはいない(あるいは相手にしていない)のだ。当然、大事な試合でもこのふたりの間でパスが通ることはほとんどなく、それが、湘北高校バスケ部のある種の「枷(かせ)」となっている。

 興味深いのは、監督の安西もキャプテンの赤木剛憲も、そのことに気づいていながら何もいわず、強制的にふたりを協力させようというつもりもないという点だ。逆にいえば、その程度の「枷」が気にならないくらい、桜木・流川の個々の運動能力は優れているということでもあるのだが、それでも読者は、物語を追っていくうちに、桜木から流川へ、あるいは、流川から桜木へパスを出すシーンを一刻も早く見てみたいと思うようになるだろう。

 そう――この、ふたりの間にパスが通るか通らないかという問題は、作品の上では、湘北高校が試合に勝つか負けるかということと同じくらい重要なテーマであり、そもそも、『少年ジャンプ』の3大原則である「友情・努力・勝利」のうちの「勝利」を成し遂げるには、桜木と流川の間に「友情」が芽生えるかどうかにかかっているとさえいえよう。

※ 以下、ネタバレ注意

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