女優・室井滋が明かす、コロナ禍で絵本に込めた想い 「人と『会う』って、どういうことなんだろう」
震災が朗読を続けようと思う大きなきっかけに
――執筆専用の部屋があるのでしょうか?
室井:いえ、普段エッセイは喫茶店で書くことが多いです。でもそういえば、絵本は喫茶店では書きませんね。なんでだろ。いつも人がガヤガヤいるところで書いてるんですけど、絵本は言われてみると、違いますね。
――ご自宅で。
室井:そうですね。場所は決まってないんですけどね。台所のテーブルだったり、客間で庭を見ながらだったり、空を眺めながらとか。それこそ『しげちゃん』は階段で書いたし(笑)。でも喫茶店では書けないな。不思議ですね。
――室井さんは女優業と並行してエッセイをずっと書いてらっしゃって、10年前からは絵本も書かれています。先ほどお話にも出た「しげちゃん一座」も続けていますが、絵本を書いたら朗読したいという気持ちは、最初からあったのでしょうか?
室井:『しげちゃん』を書いたときに、たまたまある図書館から、長谷川さんの原画展をするので、ゲストに来てもらえませんかと言われて、そこで朗読したんです。そしたら評判がすごくよくて、大阪のほうにも呼ばれて。今度は長谷川さんの知り合いのミュージシャンの岡淳さんと大友剛さんも呼んで4人でやったんです。朗読したり、歌ったり、手品をする人もいるので、いろいろとやったら、お客さんがすごく喜んじゃって。それを見た人が、「うちの町でもやってくれ」と。そんな感じで自然発生的に始まったんです。
――そうだったんですね。
室井:グループ結成!とかそんなのは全然なくて。最初は衣装もちぐはぐな恰好でやってたんですが、これは作っちゃったほうがいいなと衣装を合わせて。呼ばれる回数もだんだん増えてきて。あるとき、たしか長谷川さんが「これは『しげちゃん一座』だね」と。今思えばもっとかっこいい名前にすればよかったなと思うんですけどね。だって、「しげちゃん一座」ですよ。一座って!(苦笑)。まあでもそんな感じで、途中からイベンターみたいな方が入ったりして、すごく小さな会場から、沢田研二さんとかがやってるような2000人くらいのホールまで、ほんと全国津々浦々。
――今年は10周年ですね。
室井:そう、10年。ちょうど東日本大震災の年だったんですが、そもそも朗読を続けようと思ったのは、東北にボランティアで行ったときのことが大きかったんです。あのとき、自分が歌手だったら何か歌って励ましたりとかもできるけど、女優ってなんにもできないんだなぁなんて思っていて。もちろん、出来る方もいらっしゃると思いますが、そのときの私にはできることがなくて。
それこそ大切な人を亡くしたり、離れ離れになった人たちがたくさんいらして。いろんなものを失って。そんななかで、東北のラジオ局で『しげちゃん』の朗読を頼まれたりして、何度か行くうちに、こうした朗読ならできると感じたのと、人様から呼んでいただけるタイミングが重なっていって、「しげちゃん一座」が自然発生して、演目も増やしたいと思うようになっていったんです。
絵本デビュー作『しげちゃん』は、絵も自分が描く気満々だった
――長谷川さんとは『しげちゃん』のときから組まれていますが、それ以前から、室井さんのエッセイに挿絵を書かれていたんですよね。その縁で絵本でも?
室井:「週刊文春」で新しい連載(「すっぴん魂」)を始めるときに、それまで本の装丁をお願いしていた日比野克彦さんにお願いしようと思ったのですが、大学の先生をされていたりとお忙しかったので、誰か見つけなきゃと思って、イラストレーター名鑑を見ていたんです。そのとき、900人の中から「この人がいい!」と見つけたのが長谷川さんでした。そのころ長谷川さんはまだ絵本作家さんではなくて、イラストレーターさんだったんです。12年間、連載の挿絵を描いてくださいましたが、その間にお会いしたのは3回だけでした。
――そうなんですか!?
室井:途中に編集さんが入っているし、特に会う必要はなかったんです。で、その間に長谷川さんは絵本作家になっていて、うちにも絵本が送られてきていましたけど、子どもがいるわけではないし、そんなに真剣に読んでなくて(苦笑)。絵本作家さんという認識を持っていなかったんです。文春の連載が終わるときに、ちょうど長谷川さんが南青山の画廊で個展をされるというのを聞いて、ご挨拶に行きゃなきゃと思って足を運んだら、オープニングイベントの日で、編集者がうじゃうじゃいてビックリですよ! そのときに初めて、「うわ、この人、人気の絵本作家さんなんだ!」って。
――あはは、そうだったんですね。
室井:そこで「なぜここに室井さんがいるんですか?」と聞かれて、「12年前から挿絵を描いてもらってるんです」って話したら「ラッキーですね」とか言われて。もうただただビックリしているときに金の星社の編集者さんが話しかけてきて、「室井さん、絵本を出しませんか」と。ちょうど週刊誌と月刊誌の連載が終わったところだったので、じゃあ、書いてみようかなと。そこで3つ書いて持って行ったんです。1つは文章が多すぎてダメで、もう1つはおじいちゃんの尿瓶の話でNG(笑)。もう1つが『しげちゃん』でした。でもね、絵本を出すというから、当然絵も自分が描くものだと思っていたら、「長谷川さんに」って。私は描く気満々だったんですけどね(笑)。
――室井さんの推薦じゃなかったんですね(笑)。
室井:編集さんは最初からそのつもりだったんですね。それで長谷川さんに描いてもらったら、すごくかわいいのが出来てきて、私も嬉しくなっちゃって。そしたらヒットまでしちゃって。私、絵本が当たるとかそういう意識を持っていなかったんですけど、売れちゃったんです(笑)。
絵本って、子どものタオルみたいな存在
――今回の『会いたくて会いたくて』は、長谷川さんの絵のタッチがこれまでの絵本とは違います。
室井:私がお願いしたんです。もともとイラストレーター名鑑で私が見て、連載の挿絵にも描いていただいていた長谷川さんの絵は線画でした。絵本での長谷川さんの頭が大きくて線の太いパワフルな絵も好きですが、もともとの私のなかでの長谷川さんの絵のイメージである線画で、今回はお願いしたいと。理由は、お子さんにも読んでもらいたいけれど、大人にも手に取ってもらいたいと思ったから。だから、長谷川さんのスタイリッシュで郷愁を誘うような線画でお願いしました。
――テーマともとても合っていますね。
室井:人と「会う」って、どういうことなんだろうと。それが第一のテーマです。ただ長い時間一緒にいることが、イコール会ったことになるのかなって。その人を感じ取るってどういうことなのか。それが第一。2つめは、コロナ禍のなかにあって、IT化って大切なことだとは思うのですが、そこで置き去りにされていくものについても考えたんです。昔ながらの手作りのものも残してほしい。そういうものがなくなっちゃったら寂しいでしょう。手紙を待ち遠しく思うとか。郷ひろみさんじゃないけど、「会えない時間が愛育てるのさ」って。それってすごく大事なことだと思うんです。便利になってすべての欲求が早く満たされるようになったけれど、そこにちょっとクエスチョンが浮かぶときがある。人って、時間をかけたり、なにか失敗したり、いろんな体験があるほうがそのことを忘れないし、人との繋がりもできていくんじゃないかなって。そうした思いを込めました。
――「絵本」という存在自体に、改めて何か思うことはありましたか?
室井:「しげちゃん一座」を立ち上げてから、絵本ってすごいんだなと思うことばかりです。2014年からは、地元のFM局に提案して、「しげちゃん☆おはなしラジオ」という、小学校の給食の時間に、県内の昔話を読んだり、絵本を紹介したりする番組を流してもらっているのですが、週イチでやっているので、それはもう膨大な数の絵本や昔話を読んでるんです。そうすると、絵本には、映画の世界にも通じるところがあるのを感じます。言葉でそれ以上言わずに、絵に託したり、想像力を膨らませてくれる何かがある。ラジオなどで絵が見られないときは、声の出し方を工夫したり、擬音とか音楽を入れて伝わるように工夫したり。やっぱり想像力を刺激してくれます。随分勉強になっていますし、何より、絵本は繰り返し繰り返し触れるものだというのがステキだと思います。
――確かにそうですね。
室井:ずっと読んでいくなかでシワシワになったり、古ぼけてシミが付いたり。でもそれでいいと思うんです。絵本ってそういう、なんていうのかな、子どものタオルみたいな存在。寝るときに大切に抱えて眠るような。そういうものだと思うんですよね。いろんな匂いが染み込んで。子どもにとってとても大切な存在だし、親にとっても愛おしいものになっているんじゃないかと思います。
■書籍情報
絵本『会いたくて会いたくて』
作:室井滋
絵:長谷川義史
出版社:小学館(発売中)
https://www.shogakukan.co.jp/books/09725096
しげちゃんシリーズ第3弾『しげちゃんのはつこい』
作:室井滋
絵:長谷川義史
出版社:金の星社
2021年3月下旬発売予定
https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784323074696