ライムスターが語る、ヒップホップのライブの価値 「歴史が浅いからこそ、何ができるのかを試行錯誤してきた」

またライブが再開できる日は必ず来る

ーーファンからすると、一回のライブの前にどれだけの試行錯誤があるのかが窺い知れるのも面白いポイントだと思います。

宇多丸:ライブの流れを決めるだけでも本当に大変ですね。「セットリストに終わりなし」と書いているけれど、ライブは単に完成度を高めていけば良いというものでもない。完成度を高めると同時に、流動性や偶発性を意識しなければいけなくて。ミスやアクシデントもまたライブの面白さですから。不思議なものです。

ーーだからみなさんは、ライブ前に少しお酒を飲まれるという……。

一同:(笑)。

宇多丸:まあ、それは褒められたことではないですけれど、「バッドチューニング」は流動性や偶発性を高める要素として必要ですね。あとは、単純に気を楽にする効果もある。準備を十分にして、あとは力を抜いてステージに挑むというか。何事にしても、力を入れすぎない方がうまくいくことってあるじゃないですか。失敗したからといって、ステージで勝手に凹んでいてもしょうがないですし。

ーーMummy Dさんが本書で提言していた「おじさんはどんどんふざけなければいけない」という考え方とも通じる気がします。

Mummy D:だって、ステージ上でシリアスになっているおじさんなんて見たくないでしょう(笑)。おじさんになればなるほど、なにかをやるときには軽さが必要になってくるんです。言ってみれば高田純次さんみたいな感じが、目指すべきおじさん像じゃないですかね。

ーーバッドチューニングもそうですけれど、JINさんが忘れ物しないようにものすごく気をつけていることとか、ライブという非日常的な空間を作り上げる上でも、実はちょっとした心がけが大切なんだということがこの本から伝わってきます。その意味で、クリエイターやアーティストといった人々ではなくても、学びのある本になっていると思いました。

Mummy D:編集の方にもそれは言われました。我々が語るライブ哲学は、多くの人にとっていわゆるビジネス本のような役割もあるはずだって。「こんな話で役に立ちますか?」という感じもあるけれど、もしそうだとしたら嬉しいですね。

宇多丸:先ほど書店員の方に、「MCについての話がすごく参考になりました」と言っていただいたんですけれど、たしかにそうかもしれないと思いました。しゃべりの技術って、なにも芸能的な分野だけではなく、不特定多数の人を相手に接客をしている方などにとっても大事じゃないですか。例えば、化粧品の販売接客だって、トークスキルは武器になるはずで。グループを長く続けるコツとかも、会社員やお店をやっている人にとって役立つ話かもしれない。顧客の要望に応えつつ、こちら側の強みをどうアピールしていくかという問題は、僕らの仕事に限らず重要なことだと思うので、そういう読み方をしてもらっても面白いと思います。きっと、基本的なところはそんなに変わらないんじゃないかな。

ーーこの本が、ライブエンターテイメント業界の発展に貢献してきた「ぴあ」から刊行されるのも意義深いと思います。コロナでライブの開催が難しい中、作り手の視点からライブの価値を改めて示すような内容で、そこに感銘を受けました。

一同:……たしかに!

宇多丸:言われてみれば本当にそうですね。そもそも、ライブの魅力を別の角度から伝えようとして始めた連載でしたね。

Mummy D:それは僕の意見として書いておいてください(笑)。

DJ JIN:2019年の全国ツアーはめちゃくちゃ手応えがあったので、それがコロナで一切できなくなってしまったのは残念ですが、こうして本を通じて我々のライブに対する想いを伝えられたのは良かったと思います。またライブが再開できる日は必ず来るので、それまでにこの本を読んで、期待を膨らませてくれたら嬉しいですね。

■書籍情報
『KING OF STAGE ~ライムスターのライブ哲学』
ライムスター、高橋芳朗 著
発売中
出版社 : ぴあ
https://www.piabooks.com/kingofstage

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