いしわたり淳治×狩野英孝 特別対談:作詞家が分析する、50TAの歌詞の面白さとは?

本気で格好いいと思って真似してたものが、芸人として活きている

――それというのはつまり、真面目に歌うこととふざけることが絶妙に混ざっているということですか?

狩野:僕はふざけてるつもり一切ないんですけど。

いしわたり:それがいいんです。他の芸人さんと違って、狩野さんは本当に勇気づけようとしてくれてるんじゃないかっていうリアリティーがある。

狩野:そうですね。僕は100%ストレートに作ってます。

――そういうものが予想外のところで笑いにつながるのって、ご自身としてはどう感じてらっしゃるんですか?

狩野:最初はすごく嫌だったんですよ。

いしわたり:笑われることが?

狩野:はい。なんでこんな一生懸命、真面目にやってることがイジられたり笑ったりされるんだって。淳さんにも「なんでそんなヒドいこと言うんですか」みたいな感じで最初は思ってたんですけど。でも、これがテレビでOAされたら「面白かったです」って言ってくださるだけじゃなくて、手紙が届いたりするんですよ。「学校にずっと行きたくなくて休んでたのに、あれを観て勇気もらって学校行ってみました」とか。

いしわたり:絶対そうだと思いますよ。

狩野:そんな手紙をもらったら、「え!? だったらありなのかな!」って徐々に思ってくるんですよね。でも、かと言って、そういうのを狙おうとしても狙えない。「じゃあ、こういう系が好きなんでしょ?」って思って作ろうと思っても、なんにも浮かんでこなかったりする。だから、もうシンプルに自分のやりたいことをやってるだけですね。

狩野英孝

いしわたり:たとえば『千鳥のクセがスゴいネタGP』で「大きな古時計」を歌ったりしてるじゃないですか。あれはオモシロとしてやってるんですよね?

狩野:いや、あれも最近になってテレビでやらせてもらいましたけど、もともと高校生の頃からやってるんですよ。格好いいと思って。

いしわたり:あれも本気だったんだ。

狩野:高校時代に好きなミュージシャンのライブに行ったりすると、CDで聴いたのと違う感じでアレンジして歌うじゃないですか。溜めて歌ったり、語尾を変えてみたり。あれを観て「格好いい!」って思ってたんですよ。だから僕も、もともとあった曲を自分の歌みたいに格好つけて歌ってたのがもともとやってたことで。

いしわたり:「♪100年休まずに チクタクチクタク」の「チクタク」のところをボイスパーカッションにしてるじゃないですか。あれはさすがに笑いをとりにいってますよね?

狩野:いや、あれもやってたんですよ。うちは宮城のド田舎だったんですけれど、免許取りたての時にお母さんの車を運転しながらあの曲を歌ってて。夜で誰もいないから、「♪100年休まずに」の時に、ハザードボタンをポチッと押して「♪チッチッチッチ」って鳴らして。で、「♪おじいさんと一緒に」でまたハザードボタンを押して「♪チッチッチッチ」って。そういうのを夜中に一人でやってたくらい、あそこは格好つけるポイントだと思ってたんで。

いしわたり:なるほど、そこすらもピュアだとは思わなかったです。すごい。

――狩野さんとしては、面白いか面白くないかというポイントよりも、格好いいか格好悪いかのポイントで判断していることが多い?

狩野:それはすごくあると思います。僕は中高生の時からL’Arc-en-Cielさんが大好きで、コンサートのDVDを何度も観て、hydeさんの歌い方とか身振りとか、そういうのをずっと格好いいと思ってきたんですね。その手の動きが、結局「ラーメン・つけ麺・僕イケメン」って言うときの手振りに繋がってたりする。自分が本気で格好いいと思って真似してたhydeさんの身振りとか、歌とか、そういうのが全部芸人としての自分に活かされてる感じですね。

いしわたり:やっぱ本物には敵わないってことですよね。「格好つける」って、本来は格好悪いことじゃないですか。「あいつ、格好つけてるよな」って、どう考えても悪口なので。でも、ごく一部に、格好つけて本当に格好いい人がいるんですよね。

狩野:それで言うと、僕、2007年くらいに『爆笑レッドカーペット』というネタ番組でテレビに出させていただいたんですけれど、あの番組って、いろんな芸人が1分くらいのネタをやるんですよ。それきっかけで沢山の芸人が世に出たんでめちゃくちゃありがたかったんですけど、みんなキャラを維持するのが大変だったんです。でも、その中で僕は白スーツ着て胸にバラの花をさしてロン毛で「僕イケメン」ってやってて、そのキャラが崩れることが一切なかったんですね。考えてみたら根っからのナルシストだし格好つけだから、素もこのままだった。だから楽だったというのはありますね。

50TAの音楽には“見切り発車”の良さがある

いしわたり淳治×狩野英孝

――狩野さんから、プロの作詞家としてのいしわたりさんに聞きたいことはありますか?

狩野:どんな感じでオファーを受けるのか聞きたいですね。たとえば誰が歌うのかだけじゃなくて、たとえば「楽しい曲で」とか「悲しい曲で」とか「バラードで」とか、いろんなこと言われたりするんですか?

いしわたり:簡単に言うと、アルバム曲だと自由度が高いことが多いです。タイアップの絡んでいるシングル曲とかになってくると、縛りが多くなっていく感じですね。映画の主題歌だったら「このシーンでの主人公のこういう心情で」と言われて台本を全部読むところから始まる時もあるし、ざっくりと「勇気が出るようなもの」みたいな時もありますし。

狩野:曲を作るときに「ここを推すぞ!」というパンチラインみたいなものは最初に決めるんですか?

いしわたり:決めます。

狩野:それってどうやって出てくるんですか?

いしわたり:「こういうことだな」みたいなところが浮かぶまで打ち合わせをします。逆に言うと、それさえ決まってしまえば、あとはそこに向かっての階段を作るだけなので。

狩野:なるほど。それって会議とかで生まれてくるものなんですか?

いしわたり:僕は注文が多い方がいいので、CMの曲だったら、主人公はクラスの中でイケてるグループですか? そうじゃないほうですか?とか、部活はなんですか?とか、そういうのまで聞いちゃいます。その方がやりやすいんですよね。エピソードひとつ描くにしても「こういうキャラだったら文化祭をこういう風に見てただろうな」となるので。情報があればあるほど知りたいタイプですね。

狩野:書いた歌詞を送る時ってどんな感じなんですか? 「よっしゃ、いいのできた」なのか、「大丈夫かな、これでいいのかな」なのか、みたいな。

いしわたり:「大丈夫かな」はないんですけど、送るときに「おそらくここは引っかかるだろうな」と思うことはありますね。引っかかるというのは「別のものないですか?」と言われるかもしれないな、ということなんですけれど。そこも想定して2つ、3つの答えがあるような状態にはしておきます。ある程度曲全体のクオリティが担保できていて、そこが差し替わったとて崩れることはないだろうというところまで考えて出します。

狩野:なるほど。出した先も見えてらっしゃるんですね。

いしわたり:タイアップとかガチガチに決まっていると、なかなか遊べないんですよ。勝手にこっちがはしゃいで入れたものを、何度もクライアントを通して話し合ったりされるのは申し訳ないじゃないですか。でも「ここはちょっと」と言われたらすぐに出せるものがあれば向こうも安心できる。そういう風に考えたりします。

いしわたり淳治

狩野:僕はいつも「ここを推すぞ!」っていうところをどうするか、自分で悩んじゃうんですよ。〈何コレ?すっごーい!〉の時も、最初は「何コレ?すっごい」って何度も繰り返すイメージでやってたんですけれど、だんだん何やってるのかよくわかんなくなっちゃって。最終的に「4日しかないし…うーん…最後だけにする!」って決めたのが、たまたま良かっただけなんです。自分の推し言葉の置き場所であったり、どういうフレーズだったりがいつも悩みを抱えていて。

いしわたり:50TAの音楽を聴いてて思うのは、見切り発車の良さってあると思うんですよ。

狩野:本当ですか? それこそ一番不安なんですよ。自分では。

いしわたり:やっぱり、ピュアにやっている延長にあるから面白いというか、特別なんだと思います。

狩野:そこは自分ではすごく複雑な感情があったりするんですよ。1カ月かけて作ったネタが全然受けなかったりボツになったりする一方で、淳さんに言われて4日で作って「え? これでいいんですか?」みたいなのがテレビで「面白かったよ!」って言われると、「俺、なんなんだろうな」って(笑)。そういう毎日が続くと、自分がわからなくなったりします。

――そういう毎日が10年以上続いているということですよね。

いしわたり:しかもずっと何かしらのドッキリを疑いながら(笑)。

狩野:すごいストレスです(笑)。

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