淡い恋、失われぬ友情、恩師への感謝……『こち亀』読者の心を震わせた珠玉の感動回4選

 『週刊少年ジャンプ』で長期連載され、多くのファンに愛される『こちら葛飾区亀有公園前派出所』。その人気の秘密に、人々の心を震わせる感動のストーリーがある。

 両津のはちゃめちゃな振る舞いが魅力となっている『こち亀』だが、本稿では感動的なエピソードを振り返ってみたい。

光の球場(82巻)

 「光の球場」は1962年から1972年まで東京都荒川区にあった野球場、東京スタジアムを舞台とした話だ。昭和30年代、少年だった両津勘吉と父銀二は、下町のど真ん中にあった東京スタジアムに通っていた。両津は父の運転する自転車に乗りながら光り輝く球場を見ると、「うわあ、まぶしい」と声を上げる。

『こちら葛飾区亀有公園前派出所』(82巻)

 両津は東京スタジアムを本拠地としていた大毎オリオンズファン。その熱は凄まじく、ベンチに上に乗って音頭をとるほど。そして足繫く通ったもう1つの理由が、ウグイス嬢の栗原さんに恋心を抱いていたことだった。球場を訪れては放送席へと顔を出す両津。ある日、そんな栗原さんが大毎の中心選手・日向と結婚することを知る。両津はショックを受け、球場に通うことを止めてしまった。

 それからしばらくして、サインをもらうため東京スタジアムの外にいた両津と友人たちは、大毎オリオンズの選手たちに遭遇する。日向が両津に声をかけると、幼き日の両津は「もうファンじゃない」「お姉ちゃんをとっちゃうなんて嫌いだ」と言って道へ飛び出す。

 すると両津は転倒し、車に轢かれそうになる。その瞬間日向が両津を救おうと飛び込み、自身が跳ねられてしまう。行動を悔いた両津は、神社に行き日向の回復を祈願する。そして栗原さんが退職する日、体調が万全ではない日向が病院から球場に向かい代打で登場。満身創痍の身体で照明に当てる大ホームランを放った。

 その後大毎オリオンズは経営不振に陥り、ロッテに身売り。球場もわずか10年で役目を終え、取り壊されてしまう。成長し学ランに身を包んだ両津は電車の中で跡地を見ながら、「もう壊されてしまったんだね、あの球場…」と寂しそうな顔を浮かべる。

 警察官となった両津は中川、麗子とともに跡地を訪れ、「わずか10年、光の如く現れ消えていった気がする」「まさに俺たち下町生まれにとって夢と光の球場だったなあ」と呟いた。

 両津のストーリーは架空だが、東京スタジアムが存在し、強い光を放っていたことや、大毎オリオンズが本拠地としていたこと、そして10年で閉場し取り壊されてしまったことなどは全て現実の話。そして、熱心なファンが残念な思いを抱えていることもまた、事実だ。

そんな切ない歴史を垣間見る事ができたストーリーだった。

浅草物語(57巻)

 両津が自転車で署を訪れると、護送される男と対面する。それは彼の幼馴染み、村瀬賢治という人物で、小学校一の天才と呼ばれ、よく遊んでいたものの、3年生の時に転校したかつての友人だった。

 そんな彼を目撃し「てっきり官僚にでもなるもんだと思っていた」と派出所で語る両津。村瀬がヤクザになってしまったことに、憤りを隠せない。数分後、護送中の村瀬が脱走したことを知った両津は、かつて2人が遊んだ浅草の路地に逃げたと確信し、探しに行く。

 するとそこには村瀬の姿が。かつての親友だが、村瀬は両津に銃口を向け、容赦なく発砲する。両津は銃弾を除け、殴り合いに。もみ合った際「何がお前を変えたのはか知らんが、人生を投げた時点でお前の負けだ」と諭す。

 「うるせえ」と聞く耳を持たない村瀬を両津も容赦なく投げ飛ばす。そして子供のころ両津がいじめっ子から村瀬を救ったエピソードを語り、そのとき「両ちゃんが悪人になっても僕が弁護士でずっと助けてあげるよ」と村瀬が声をかけていたことを話す。

 「世の中思い通りにならないもんだよな、両ちゃん」と話す村瀬と、「いってりゃ今頃総理大臣よ」と返す両津。村瀬は自身の行いを改め、自首することを約束する。両津は「もともと優秀な頭を持ってるんだ。いくらでもやり直せる」とエールを送る。

 村瀬は「寄りたいところがある」と、立ち去り、その後自首する。数日後両津は村瀬とタイムカプセルを埋めた場所に出向く。そこには掘り返された跡があり、村瀬が自首する前に後訪れていたことを知る。

 タイムカプセルの中には手紙が入っており、「勘のいいお前のことだからここを訪れているだろう」「25年前に戻らせやがって」「2001年に会うことを楽しみにしている」と書かれていた。2人は子供のころ、2001年にタイムカプセルを開けようと約束していたのだった。

 警察官とヤクザとして悲しい再開を果たしたかつての親友と、失われていなかった友情が感動的だった。

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